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連句入門（その４５）
此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
ほのかに流る風鈴の音
今回の課題はこの発句と脇句に続く第三の雑の長句を付けることでした。
応募句の殆ど全部が入選句で皆さんも大分連句に馴れて来られたように感じました。
ただ次の１句は秋の句になりますので失敗作です。
１、酒蔵に眠りし古酒の香りして
句としてはよいのですが「古酒」は「新酒」と同じように秋の季語です。
次は佳作５句を勉強しましょう。
１、湯冷ましが煎茶の旨味引き出して
筆者はお茶のことは詳しくありませんが湯冷ましで煎茶が入れられのかどうか、
意味がはっきりしないので佳作にしました。
２、ふるさとのなき身は旅を楽しみて
句としてはよいのですが、オモテ6句に出さない方が良いとされている事柄の中に旅を
入れているグループもあります。
皆さんは気にしなくてもよいのですが一応佳作にしました。
３、泰然と駄句の宗匠笑止して
句の意味がつまらない句を出した宗匠が平然として笑っているということでしょうか。
ただ「笑止」は名詞で、おかしいこと、大変なことなどの意味で、この句のような
使い方は出来ません。「平然と駄句の宗匠笑顔にて」位です。
４、太公望釣果なき日も笑顔にて
太公望は釣人とういう意味に使われることもありますが、本当は太公望呂尚という
中国の人名です。オモテ６句に人名は出せませんので佳作にしました。
「釣人は釣果なくても笑顔にて」
５、夕暮にラジオの古き歌流れ
前句に風鈴があるのにまた演歌と音を出すのは感心しません。
「夕暮」もオモテ５句目が月の定座ですから避けるべきです。
それでは入選作４１句を鑑賞します。
ここで入選といってもそれはルール上 付句として問題が無いということですから、
その中でもいろいろ優劣があります。
筆者が特に優れた句と考えた句には網掛け太字印をつけますので他の句と比べてください。
１、駄菓子屋に下町情緒残りゐて 大森道生
悪くありませんが「下町」は時に固有名詞として使われることがあります。
２、詩集手に机の少女眠るらん 大森道生
「らん」という止めは意欲的です。ただ「机の少女」はもう少しよい言い方が
あるでしょう。例えば「お下げの」など
３、忘れ癖いつも部屋中探しゐて 同上
やや病態に近くオモテ６句には余り応しくないかもしれません。
４、ビル街の学習塾に灯の入りて 同上
オモテ５句目は月の定座ですから「灯」は出来れば避けたい。
５、「似合うだろう」父の背広を吾子が着て 同上
句に言葉を入れたのは面白い。ただ「吾子」は我が子のことでこの場合おかしい上、
父があるから不要。
「“似合うだろう”父の背広を身につけて／試着して」とすべき。
６、ゲームの児父を相手にきりもなし 大森道生
良い句。「もなし」の止めも意欲的です。
７、弟子とらぬ一徹者の匠にて 池田笑子
発句・脇の醸し出す雰囲気とよくマッチし、しかも適当に転じています。
８、裂織をいまも続ける母老いて 同上
「母老いて」と「老母にて」とどちらがよいでしょうか。
９、野良猫の眼鋭く尾を上げて 佐島和人
猫をもって来た転じはよい。ただオモテ６句では「野良猫」より「三毛猫」位の方が
応しいでしょう。
１０、瑠璃色の一片の雲頂に 同上
雰囲気が少し発句に戻る感じです。
１１、老いてなほ命を懸ける唐織に 同上
「唐織に命を懸ける老にして／老ありて」でもよい。
１２、童等の脱兎のごとく立ち去りて 同上
原句は「童子等」だったが「童等」の方がよい。
１３、ニュータウン老人ばかり住む町に 千葉 繁
前２句の古い雰囲気から現代への転じと「ニュ－」と「老」の対比も面白い。
よい付け句です。
１４、映画館出でて巷の喧騒に 同上
１５、省エネはたやすきものに有らずして 同上
「有らず」は「非ず」が正しい。
１６、デパートへ用もなく行く妻のいて 同上
１７、工作の時間は今も思い出に 同上
１８、街道を行き交ふバスはカラフルに 田添豊光
この句もきれいに現代社会に転じいてよい付句です。
１９、足裏の砂ひく波に洗はれて 同上
「足裏の砂こそばゆく波引きて」位の方がよくわかるし面白いでしょう。
２０、大好きな自転車漕いで遠出して 同上
「自転車漕いで」は言葉が未熟です。「サイクリング」にしましょう。
２１、幸をわかち合ふかに酌みあひて 高野郁雄
原句「幸」をしあはせと読むなら「幸せ」とすべきです。
２２、茜さす雲や山々瞭かに 同上
「瞭か」はあきらかと読むのでしょうか。
この句は１０、と同様雰囲気が発句に戻る感じです。
２３、寄せ書きの近況の文待ちをらむ 原田安恵
２４、祝ぎ事に酌み合ふ酔は深からむ 同上
２３、２４、共「らむ」の止めをもって来たのはよいでしょう。
「祝ぎ事」の「ぎ」は不要です。
２５、青年は未来を熱く語らひて 原田安恵
よい転じでよい句です。
２６、珈琲の香り高きを楽しみて 同上
２７、有段の碁友に挑戦きりもなし 同上
「もなし」の止めに挑戦はよいことです。
ただ「碁友」より「碁敵」の方が一般的です。
２８、高蒔絵螺鈿の文箱飾られて 同上
きれいな付句ですが、前句の風鈴に続いて室内の装飾品の説明で少し重複感があります。
２９、すやすやと眠る赤子を眺めゐて 荒井 慈
３０、すやすやと眠る赤子に添寝して 同上
３１、茶懐石作法通りに楽しみて 荒井 慈
発句・脇と少し付きすぎで転じが足りないかもしれません。しかしよい付句です。
３２、囲碁の手の思案あれこれ浮かび来て 同上
３３、長屋門閂下ろす夕べにて 同上
前にも出しましたが、オモテ５句目は月の定座ですから「夕べ」は避けましょう。
「長屋門閂しかと下ろされて」としてはどうですか。
３４、カフェテラス窓辺の席の気に入りて 同上
３５、朝食は天然酵母のパン焼きて 同上
天然酵母のパンが少し唐突すぎる感じです。それと３３、と同じ理由で「朝」は
避けたいものです。
「カルチャーはパン焼き講座人気にて」で面白いでしょう。
３６、ぐい呑みに目利き好き者集まりて 同上
３７、掛け軸の漢詩は祖父の揮毫にて 北川 稔
この句も２８、と同じくやや室内の説明が重なっている感じです。
３８、音楽会友の進歩に驚きて 同上
よい発想ですが風鈴と音楽は重複感あり、例えば「書道展友の進歩に驚きて」は如何。
３９、峰々と見まがふ雲の湧きたちて 同上
１０、や２２、と同様発句の雰囲気にやや戻ります。
４０、仕上がった模型眺めつお茶入れて 北川 稔
現代的家庭的な情景に転じてよい付句です。
「仕上がった模型家族に自慢して」でも面白いでしょう。
４１、犬もじゃれ帰郷の娘の声もして 同上
中七が字余りですから、「里帰り娘に犬もじゃれつきて」位では如何。
以上太字網掛け印の９句の中から今回は１３、の
「ニュータウン老人ばかり住む町に 千葉 繁」
を治定します。発句・脇句のどちらかと云えば昔風の世界から現代の状況へと転じ、
しかも付味も悪くありません。
また一句の中にニュータウンと老の新旧を詠み込んで、大変よいと思います。
次は四句目雑の短句を付けて下さい。
五句目は月の定座ですから月に障る光る物や高い物は避けましょう。
連句入門（その４６）
発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュータウン老人ばかり住む町に
今回の課題はこれに四句目の雑の短句を付けることでした。
最初に失敗作3句につき勉強します。
１、イタリア修行終へしパテシュ
２、何回も観る「ローマの休日」
３、背高きシェフの作るフレンチ
この3句とも固有名詞が入っていますが、オモテ6句では発句以外は固有名詞は出せません。
次は佳作16句です。
１、欠伸長々小屋の番犬
発句・脇句両方共景の句いわゆる場の句です。特に打越が人情の入っていない景の句
ですからここは人情を入れたい処。この句は場の句なので佳作にしました。
２、引き算下手のデジタル（4）時計（3）
面白い句ですが１、と同じく場の句ですし下七のリズムも悪い句です。「デジタル時計
引き算が下手」にすればリズムはよくなります。
３、錨を下ろす豪華客船
この句も１，２、と同じく場の句で人情を入れたい処です。
４、白雲の疾く流れゆきたり
この句も矢張り場の句です。それと前回末尾で申し上げたとおり次の5句目は月の定座ですから
月に障る雲は出したくないのです。
５、長き影踏み歩く夕暮れ
４、と同じく月の前に夕暮れを詠むことは感心しません。
６、眺望売り物高層マンション
この句も高層マンションと高いものを月の前に出しています。また場の句ですし下七が
字余りです。
７、コンサート聴き心癒さる
８、デカンショ節で舞い上る意気
９、田に鳴く鳥の名前は知らず
１０、ペダルを踏めば青春の歌
１１、ビンゴゲームに挙がる歓声
７、～１１、の5句は何れも音を出していますが打越に「ほのかに流る風鈴の音」があり、
ここで音を出すことは感心しません。
１２、後遺症なる涙ぐせなり
１３、遺言もなくぽっくりと逝き
１２、は病態、１３、は人の死を詠んでいます。何れもオモテ6句には応はしくないので
佳作にしました。
１４、一家団欒三代（4）家族（3）
この句はリズムが悪いだけです。「三代揃ひ一家団欒」としては如何でしょうか。
１５、笑顔を誘ふピエロの（4）演技（3）
この句もリズムだけが問題です。「ピエロおどけて笑ふ観客」位でしょうか。
１６、犬も尾を振り朝の散歩
この句は下七が字足らずで大変リズムが悪くなっています。また朝も次の月に障ります。
「散歩に出れば犬は尾を振る」
次は入賞３８句の勉強です。
１、買ひて独りの箸と箸置 大森道生
「買ひて」が少し不自然な感じです。「ひとり暮らしの箸と箸置」位では。
２、電話相談悩み解消 同上
３、散髪済ませ軽き足取り 同上
４、味の管理に味覚センサー 同上
５、デジタルよりもアナログが好き 同上
６、味噌汁の香の匂ふ幸せ 同上
７、赤子に会えば笑みのこぼるる 千葉 繁
８、園児を送り急ぎパートに 同上
９、ベビーカー押す若きママさん 北川 稔
「ママさん」といふと他の意味にもとれます。「若き母親」の方がよいでしょう。
１０、発車のベルが乗車せかせる 同上
１１、ゴルフ仲間でお茶の一時 同上
１２、再会約し友の去り行く 同上
１３、時間たっぷり鈍行の旅 同上
オモテ６句に旅は出さないとするグループもあることを知っておいて下さい。
１４、宅配便の届くお隣 原田安恵
１５、太極拳を習ふこの頃 同上
１６、ペットボトルのお茶でお茶会 同上
１７、銀行マンの出入り自在に 同上
一応入選にしましたが、やや前句の続き物の感じです。
１８、気宇壮大に酌み合へる酒 同上
１９、ペット可愛や選ぶ洋服 同上
「選ぶ洋服」は少し曖昧です。「愛犬のため派手なチョッキを」ではどうでしょう。
２０、太極拳の若き指導者 池田笑子
２１、連れし散歩の犬がもてもて 同上
「散歩に連れし犬がもてもて」の方がリズムがよいのでは。
２２、レトロな店でひとり珈琲 同上
２３、頼りにならぬ気象情報 佐島和人
２４、襲名披露寄席は満員 同上
２５、長考ばかりの碁会所の友 同上
「碁会所の友」より「我が碁仇は長考が好き」では。
２６、猫は太りて呼べど動かず 高野郁雄
２７、鍬とる農夫腕たくましく 同上
２８、土竜叩きに一人遊びて 同上
この句の「土竜叩き」は遊戯の一種の「土竜叩き」とわかっているので入選としました。
しかし「土竜打ち」は正月十四日の農村行事で、新年の季語につき要注意です。
２９、七羽の矮鶏を飼ひてなぐさむ 向笠和子
３０、思ひたちては抹茶一服 同上
３１、花束抱へ結婚記念日 荒井 慈
「記念日」の日は月との関係で出来れば避けたいので「ブーケを贈る金婚の父母」
とデモしては如何ですか。
３２、好きなもの着て追わぬ流行 同上
３３、白磁青磁の壷を収集 同上
３４、飛石わたり庭の散策 田添豊光
３５、画廊でひらく夫婦展なる 割田容子
３６、染付けの壷やっと完成 同上
３７、史跡めぐりの後のざるそば 同上
３８、カメラ片手に猫と遊べり 同上
太字の１０句は前句との付味も転じも相応で入選句の中でもすぐれています。
今回はその内11句目を治定します。
「ゴルフ仲間でお茶の一時 北川 稔」
この句は雑の短句でゴルフの仲間がプレーが終った後賑やかにお茶を飲んでいる状況を詠んだものです。
前句は老人ばかりと言っていますがこの句に出てきている人間は必ずしも年寄りではなく、
また前句からの現代の風物を軽妙に詠んでいます。
さて次は愈々月の定座ですから秋の月の句をお願いします。
ご存知の通り「月」と言えば秋の季語ですから他の季語はいりません。
勿論月・名月・良夜・半月・有明月・待宵・十六夜等など月ならば何でも結構です。また月見・
月の客・玉兎・月宮殿・嫦娥など月の異名や月に関した行事も多々あります。
これらを歳時記で調べてみるのも面白いでしょう。よい月の句を沢山提出してください。
連句入門（その４７）
愈々オモテ５句目の月の句です。果たしてどんな月の句が付いたでしょうか。
最初に残念ながら失敗句が７句ありましたので、反省の材料にしたいと思います。
１、お散歩は桂男を従へて
桂男は月中に住むという仙人または美男子のことです。この句は非常に意欲的な句ですが、
ただ「桂男」と言って月の代わりをさせることは少し無理だと思います。
矢張り「月の桂」とすべきでしょう。「お散歩は月の桂を従へて」
２、あの友もこの友も逝き星月夜
「星月夜」は暗夜に星の光が月のように明るく見える夜のことで、月の句にはなりません。
「あの友もこの友も逝き月淋し」位でしょうか。
３、十六夜のベルギー土産のチョコレート
前にも触れたことがあると思いますがオモテ六句には「ベルギー」のような固有名詞は
出せないことになっています。
４、奥方のシャム猫を抱く良夜なる
３、と同様「シャム」も固有名詞。「奥方は愛猫を抱く良夜なる」でよい句になります。
５、満月に一人ぼっちのドラキュラー
「一人ぼっち」の一の字は前句に「一時」の「一」がありますから不可、更に「ドラキュラー」も
固有名詞です。
またこの前句とどんな処が付くのでしょうか。
６、月へ飛ぶ衛星の名の「かぐや」でふ
「かぐや」は３、４、５、と同様固有名詞です。
７、餡蜜の寒天淡し昼の月
「餡蜜」は夏の季語ですからこの句は夏の月になります。
次は佳作１９句です。
１、まっすぐに一本の道月さやか
前句に「一時」と「一」があります。同じ漢字は少なくとも５句は離したいものです。
２、我が胸に月の湖ありひたひたと
この句は技巧を弄び過ぎたため何だか意味が分からなくなりました。
作者の詠みたいことはどんなことだったのでしょうか？
３、月球に蒼き地球の昇り行く
月面で見た地球が次第に昇ってゆくということですか。
「月球」が何かはっきりしない言葉ですから「月世界蒼き地球の昇り行く」では。
４、盃は手作りと言ふ月の宴
句としてはよい句ですが前句が「お茶」なのに直ぐ続いて「宴会」は頂けません。
５、黄落にうつろひ易し昼の月
この句は季重なりですし２、と同じように意味がはっきりしません。
６、お座敷唄嫦娥窓辺に侍らせて
大打越に「風鈴の音」がりますからまだ音を出すのは早いでしょう。
ただ「嫦娥窓辺に」の発想はよいでしょう。「嫦娥」は「桂男」と違って月を表す名詞
として通用します。
７、名月に寝ねかてるらし群雀
言葉遣いが難しい句です。寝ることが出来ないという意味の言葉を筆者は「寝ねかぬる」と
したのでしょうが、辞書では「寝ねかてに」とありよくわかりません。
また群雀とわざわざ季重りにする必要はないでしょう。
「雀どち」でもよいし「名月に鴉・雀の寝ねかてに」では。
８、月走り椰子の街路樹騒ぎをり
「月走り」とは月光が走ったということでしょか。
それで椰子の街路樹が騒ぐとはよく句意がわかりませんので佳作にしました。
９、十六夜の隈なき月を浴びにけり
連句は次々に句を連ねてゆくものですから発句以外は切字は使いません。
「十六夜の隈なき月を身に浴びつ」では如何。
１０、名月や大沼の辺に移り住み
この句も「名月や」で切ったことが気になります。また「大沼」は北海道の大沼でしたら
固有名詞になります。
「移り住む沼の辺の月さやか」では。
１１、宮廷に流れるハープ月今宵
この句も大打越に風鈴の音がありますので佳作にしました。
１２、月の宴雅楽の耳に快き
１１、と同様音楽が大打越と障りますし、「宴」も前句が「お茶の一時」ですから同じような
情景の繰り返しになります。
１３、三日月の埋葬品のコブレット
表六句は歌仙全体の流れの序破急の序の部分に当たりますので、なるべく穏やかにはこぶのが
よいとされています。
表には発句以外は神祇・釈教・恋・無常・述懐・病態・固有名詞などを遠慮してださないのも
そのためです。
葬式即ち死に関することなども出したくないので佳作にしました。
１４、名月に芝庭かなたあがりたり「芝庭かなた」は言葉使ひが少しおかしいようです。
「芝庭のかなた名月のぼり来て」位では如何。
１５、ネオンなき終の住処や寝待月
「ネオン」なきとはナオンなどの輝いてないつまり繁華街でないという意味でしょうか、
わかりにくい表現です。また「や」の切字も気になります。
「静まれる終の住処に寝待月」では。
１６、店仕舞のドラッグストアに嫦娥差す
「嫦娥」は６、に書いたように月の代名詞になりますが、「月」といっても差支えない処に
「嫦娥」をわざわざ使うことは避けたほうがよいでしょう。
「ドラッグストアシャッターおろす月明り」の方がわかりやすいでしょう。
１７、明日の好天約す夜半の月
わざわざ「明日」とルビを振ってまでこの言葉を出すひつようはないのでは。
句意は明日の晴天を約束するように夜半の月が見えるということですか。
問題は「夜半の月」で夜半はよふけ、よなかかの意味ですからもう日付が変わって
いるかも知れません。従って明日では却っておかしくなるのです。
「好天を約すかのごと夜半の月」でよいのです。
１８、移り住むマンションの窓月渡る
打越にニュータウンがあるのにマンションは頂けません。
「移り来し終の住処に月渡る」の方がよいと思います。
１９、コンサート終って仰ぐ望の月
大打越に風鈴の音があり同じ折に音は出さない方がよいでしょう。
「勉強会終わりて仰ぐ望の月」としては。
最後に入選４０句を勉強しましょう。
１、真夜の月メール飛び交ふ気配あり 原田安恵
現代的で面白い月の句です。
２、月射して芒の穂波揺れつづく 同上
３、急ぐまじ帰路は楽しく月連れて 同上
４、窓の月単身赴任慣れもして 同上
入選にしましたが「もして」は抵抗を感じます。
「単身赴任馴れし頃なり窓の月」では如何でしょう。
５、望月の光を浴びて露天風呂 大森道生
６、穂の薄光る湖畔に月の舟 同上
７、木刀の素振り千本月明り 同上
面白い発想のよい句です。
８、ありし日の母の声聴く望の月 田添豊光
９、走り行く高速道に初月夜 同上
初月夜とは仲秋のはじめの月即ち四、五、六日の月です。
１０、満月に見守れゆくバスの旅 同上
１１、メトロ出て心洗はる十三夜 同上
１２、名残りの月見越しの松の梢越しに 同上
１３、後の月木枕に首なじみきて 向笠和子
１４、蔵二階書斎ときめぬ月まつる 向笠和子
１５、飲食をひとまかせなる月まつる 同上
「飲食はひとにまかせて月まつる」の方がすっきりします。
１６、月光の南まはりを起きており 同上
１７、月今宵園遊会の名士達 荒井 慈
一応入選にしましたが「園遊会」と前句の「お茶の一時」が気になります。１８、飼ひ猫を母呼んでゐる良夜なる 同上
１９、満月に眠る木乃伊の侍女あまた 同上
発想が面白いので入選にしましたが、佳作１３、で説明したとおり、表六句に
「木乃伊」は余り感心しません。また前句との付味も今一つです。
２０、静かなる古城の庭に月を賞で 高野郁雄
２１、十六夜はやや欠けあるを恥じてをり 同上
面白い発想です。
２２、父母と月を見守る児の寝顔 同上
２３、三日月の姿美し妻を呼ぶ 千葉 繁
２４、見たくあり見ずにおきたし月の裏 同上
２５、ヤッホーと月で振る手の見ゆるごと 同上
２６、名月にふと来し方を顧り見る 同上
２７、影絵して吾子と遊べる月の縁 池田笑子
２８、遠回りして酔い醒ます月の道 同上
２９、月明の広野の中で走り込み 佐島和人
３０、石庭の白砂の陰月清し 同上
３１、家荀に心急く帰路夕月夜 同上
３２、待宵に母の遺愛の墨を磨る 割田容子
３３、美しき料紙をひろげ良夜なる 同上
３４、小面を据えて待ちたる宵月夜 同上
３５、輪になりて月宮殿の兎どち 同上
３６、上り月みがきこまれし能舞台 同上
３７、吊り橋の揺れを怖がり仰ぐ月 北川 稔
３８、月昇る孫の誕生知らせ来る 同上
３９、お月様どうか適えてこの願い 同上
４０、名月に友の自慢の酒を汲む 同上
入選にしましたが前句が「お茶」でまた「酒汲む」は余り感心しません。
以上４０句という沢山の入選句、その中でも特に網掛け太文字の１１句はすぐれています。
今回はその中から
上り月みがきこまれし能舞台 割田容子
を治定します。上り月とは月が徐々に上がって来る様子とも解釈出来ますが、一般的には
「上弦の月」つまり陰暦朔から夜毎に丸く満ちて満月になるまでの月のことを言います。
「降り月」はその反対で段々欠けてゆく月のことです。この句は見事に磨きこまれた能舞台に月それも上り月が
耿々と照っている様子で格調の高い句です。
次はオモテの最後の句（折端と言います）で秋の短句です。この句までは当然表六句の
制約がありますから余り暴れる訳には参りませんが、月の句と不即不離のよい秋の句を
つけてください。
お正月をはさんでゆっくりとよい句を考えましょう。
連句入門（その４８）
平成２０年も一ヶ月が過ぎました。筆者の事情で皆様への連絡が早々に遅れ申し訳ありませんが、
今年もよろしくお願い申し上げます。
今回の課題はオモテの六句目（これを折端といいますが）の秋の短句でした。
今迄の処を復習します。
発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュウータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間とお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
残念ながら失敗作がいくつかありました。
まだオモテですからオモテ特有のいろいろなルールがあるのを忘れたり、前に出ている言葉や文字に
注意しなかったりしたミスです。
失敗作８句
１、夕日集めて燃ゆるかまつか
月のあと夕日では逆戻りです。
２、虫吹く翁池を廻れる「虫吹く」といふ珍しい季語を使ったのは手柄ですが、大打越に「老人」が
あるのに「翁」は頂けません。一寸変化球ですが「あはれを知りし虫を吹く頃」とでも
すると面白いでしょう。
３、虫時雨聞く古寺の堂縁
６句目とはいえまだオモテですからオモテで出していけないもの、神祇釈教恋無常病態等は
出せません。従って古寺は釈教ですから不可です。
また堂縁も前句に能舞台という建物があり感心しません。
４、木犀の香につつまれ茶会
打越に「お茶の一時」があるのに「茶会」は駄目です。
５、ゆるりと上る蟷螂の斧
前句に「上り」があるのを見逃して「上る」としたのでしょうか。
「ゆるりと動く蟷螂の斧」にすれば問題はありません。
６、夕日に真紅食卓の柿
１、と同じ理由で「夕日」は頂けません。
７、奮起一番ピアノ始める
兼題は秋の短句なのにこの句は季語がありません。
８、いろあはあはとうすばかげろふ
平仮名ばかりの句は意欲的ですし「うすばかげろふ」のイメージにもよく合ひます。
しかし残念ながら「薄葉蜉蝣」は晩夏の季語です。
次は佳作１９句です。
１、篝火のごと曼珠沙華咲く
前句の月のあとに「篝火」と火をもって来ては月と喧嘩の感じです。
２、秋の窓よりもるる唄声
前句に「野舞台」という建物があるのに「窓」は出したくありません。
３、菊人形の技鮮やかに
大打越の第三が「に」で止めているのにまた「に」は不可。また同じく大打越に「老人」と
あるのに「人形」も感心しません。「菊師の命こもる色艶」くらいでしょうか。
４、爽かな風里山に吹き
「風」は脇句にあり間が３句しか離れていませんので佳作にしました。
５、稲妻見ても変えぬ顔色
「稲妻」は月と同じく天象の光の季語ですから出来れば別な季語が欲しい処です。
「穴惑い見て変えぬ顔色」
６、詫手紙書く夜の露けさ
月のあとに「夜」も感心しませんし「露」も４、と同じように天象の季語です。
「後の雛に詫手紙添へ」では。
７、踊りの稽古集ふ常連
打越がゴルフ仲間が集まってお茶を飲む句なのにまた同じような句で堂々巡りです。
能舞台に続く踊りも感心しません。
８、秋の夜長に本を買い込み
「月」の句のあとまた「夜長」は感心しません。「読書の秋に本を買い込み」としては。
９、夜目にも白くコスモスの咲く
７、と同じく「月」のすぐあとに「夜」は感心しません。
「休耕田にコスモスの揺れ」「薬草園にコスモスの揺れ」くらいでしょうか。
１０、穫入れ莞爾案山子立つ
この句豊かな実りに案山子が笑って立っていることを詠んでいるのでしょうか。
下七は案山子（あんざんし）と読ませるのでしょうが少し無理です。
もっと単純に分かりやすくして「豊かな秋に案山子笑み立つ」とでもしては。
１１、翁媼の無言の夜食
５、７、８、などど同じく夜は出したくありません。また打越に「お茶」があり
「夜食」も感心しません。更に大打越に「老人」がありますから「翁媼」も不可です。
「木犀／新藁の香をしみじみと愛づ」では如何ですか。
１２、風のまにまに遠砧きく
良い句ですが４、と同じく「風」で佳作にしました。
１３、洋館巡り蔦紅葉染む
２、で指摘したように前句に建物があるのにまた建物は感心しません。
１４、風の行き交ふコスモスの道
４、や１２、と同じく「風」で佳作にしました。
１５、新書両手で灯火親しむ
矢張り月のあとに「灯火」は感心しません。「原書机上に学問の秋」とでもしては。
１６、秋蝶なれど五色のつばさ
この句はよく分かりません。月の句の後の「秋蝶」も付味がよくありませんしまた
「つばさ」とは何でしょうか。普通蝶は「翅」ですが。
１７、庭の廻りに満天星（4）紅葉（3）
リズムが悪いですね。「満天星紅葉めぐらせる庭」とすべきです。
１８、夜店の隅に籠の松虫
５、７、８、１１、などと同じく夜を出したくないので佳作にしました。
「松虫ひさぐ少年の店」「父の土産の松虫の籠」などでは。
１９、水面で遊ぶ塩辛（4）蜻蛉（3）
塩辛とんぼは余り水面にいないしリズムも悪い。
単純に「塩辛とんぼ遊ぶ公園」か、これでも付味は余りよくない。
次は愈々入選２７句を楽しみましょう。
１、餌をねだりて鹿のつき来る 大森道生
２、艶めく肌の穴に入る蛇 同上
変わった句で面白い
３、親の後継ぎ菊師襲名 同上
４、案内状に新酒贈ると 同上
案内状は少し大げさな感じ。「新酒送るとＥメール来る」くらいか。
５、ピンクや白にゆれるコスモス 田添豊光
６、はるかにのぞむ粧へる山 同上
７、口を開けいる石榴ころがり 同上
８、紅葉かつ散るいろはにほへと 同上
面白いがどんねな意図で「いろはにほへと」としたのか作者の考えを聞いてみたい。
９、故郷の柿も今熟し頃 千葉 繁
「熟し頃」よりもっときれいな表現がありそう。「故郷の柿はいま熟るる頃」
１０、運動会に親がいそいそ 同上
前句との付味はかなずしもよくない。「運動会も準備終了」位か。
１１、蓑虫揺るる父祖の黒松 池田笑子
能舞台には必ず松がある故、やや気になる。「鬼の捨て子のふらりふらりと」
１２、糸瓜の水をひとり取り来る 池田笑子
１３、役目終わりて案山子寂しげ 北川 稔
「役目終わりし」の方がよい。
１４、玄人はだしこの村芝居 北川 稔
一応入選としたが「玄人」の人は大打越の「老人」の人と同字、また前句が能舞台なので
「芝居」もやや障ります。
１５、甘栗買って偲ぶ故里 同上
１６、一入身に沁む芸の厳しさ 高野郁雄
「身に入みわたる芸の厳しさ」とした方がわかりやすい。
１７、菊人形の錦繍の帯 荒井 慈
１４、と同じく「人形」の人が「老人」の人に障る。「菊師の苦心錦繍の帯」位か。
１８、艶よき林檎作りものめく 同上
１９、静かにありぬ色変えぬ松 同上
１１、と同じく松はやや気になる。
２０、金木犀の香る坂道 同上
２１、素顔爽やか笑顔よき友 同上
何故わざわざ「素顔」と言ったのか少し不自然。「いつも爽やか笑顔よき友」
２２、忘れ扇に残る伽羅の香 佐島和人
２３、藍絵の壷に生ける紅菊 同上
下五の「紅菊」とはどんな菊か？ 「白菊」の方がよいのでは。
２４、松手入れ済み苑の広々 原田安恵
２５、添水の間合まこときっかり 原田安恵
２６、紫うすき式部挿しある 同上
「挿しある」は少し言葉が未熟。「生けらる」「生けたる」では。
２７、「誰そや」と見れば横切る小牡鹿 同上
面白い句。平凡だが「わが目の前を横切る小牡鹿」とも出来る。
入選句の中でも網掛け太字の７句が特にすぐれています。
この結果治定句は
「忘れ扇に残る伽羅の香 佐島和人」
とします。
みがきこまれた能舞台と伽羅の香の忘れ扇の付味が見事です。
次は愈々ウラの最初の句（折立）です。
ここからはオモテ６句にあったいろいろな制約は一切なくなりますから自由闊達に詠んでください。
次はもう一句秋の長句です。
連句入門（その４９）
今回は愈々ウラの折立（最初の句）です。
オモテ６句はいろいろ制約がありましたが、ウラに入ればそういったコントロールは殆どなくなり
自由に句が詠めることになります。だからと言って何でもよいのではなく、連句は前へ前へと新境地を
開いてゆくのですから既に出た句や言葉と同じような句を詠んで後戻りすることは厳禁ですし、
前句とは不即不離の付け味がなくてはなりません。
従って今まで巻いた分をよく読んで理解しておかないとよい付句は出来ません。
はじめから復習しますと、次の通り。
発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュウータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間とお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
六 忘れ扇に残る伽羅の香
皆さん少し馴れ過ぎたのか、今回は前をよく見ないで付けたと思われる失敗作が８句もありました。
失敗句
「打越し」とは前の前の句のことです。この句と同じような句になることは禁物です。
１、明るさも心許なき秋蛍
この句は秋の夜を詠んでいるのですが打越も秋の夜を詠んだ月の句でまた後戻りすることになります。
２、戦記物秋の夜長を読み耽る
この句も１、と同じく秋の夜を詠んだ句で打越に戻ります。
３、神の留守境内守る大欅
「神の留守」は初冬の季語ですから、秋の句を詠む課題に合いません。
４、月満ちて童話の世界ひろがれる
打越に「上り月」が出ているのにまた月を出すとはどうしたのでしょうか。
５、翁媼の談笑続く秋の暮
この半歌仙では第三に「老人ばかり」と老人が出ていて、また「翁媼」を出すことは頂けません。
６、秋うらら空へ空へと理髪灯
この句も「空へ空へ」と天空を詠んでいて打越の「上り月」と同じ空で戻ります。
７、バロックのシーデイーを聴く長き夜
１～２、と同じく夜を詠んだ句で打越に戻ります。
８、器量よき老人がをり草の花
５、と同じく３、に「老人」がありもう老人は出さないことです。
次は佳作１１句です。
１、今年酒いまか今かと待ちわびて
４句目に飲み物である「お茶」があり間に２句しかありません（二句去りと言います）
ので近すぎます。
２、黒焦げの白磁の皿の秋刀魚食ぶ
原句の語順では「黒焦げ」が白磁の皿にかかるともとれます。
「黒焦げの秋刀魚白磁の皿に盛る」では。
３、赤とんぼ吸い込まれそうな高き空
この句も打越に戻る感じがありますので辛くも佳作です。
４、後慕ひ来たるを待つや秋の暮
「秋の暮」は秋の夕暮とも秋の終わり頃ともとれます。前者ですと夜に近く打越に戻
る感じがあります。
５、朝まだき湖近き故の霧か靄か
視程が１粁以内だと霧、それ以上だと靄だそうです。原句は下五が字余りでロズムが悪いので
「湖近き故の煙霧か朝まだき」としてはどうでしょうか。
６、草の実や歩く力をやしなはむ
連句は次から次へ続けるのが本旨ですから発句以外は切れ字を使いたくありません。
「草の香に歩く力をやしなはむ」では。「草の香」も秋の季語です。
７、秋蝶の細きうなじの女に添ふ
「女」を「ひと」と詠むのは成るべく避けたいものです。
「秋蝶は細きうなじに恋ひこがれ」位にしては。
８、曼珠沙華卒塔婆小町の白日夢
「白日」が打越の「月」にやや障る感じがあるので佳作にしました。
９、黄表紙の俯く女夕化粧
４、と同じく「夕化粧」夕は打越の「夜」に戻る感じなので佳作です。
１０、固茄での枝豆で酌む独り酒
１、と同じく飲み物の「お茶」に近すぎるので佳作としました。
１１、ちびちびとうるかを当てにひとり酒
１、１０、と同じく酒は同じ飲み物の茶に近すぎます。句としてはよい句です。
最後に入選３６句を勉強しましょう。
１、秋深し寂聴源氏読み返す 大森道生
２、曝涼の正倉院の御物観る 同上
普通の「虫干し」や「曝涼」は夏の季語ですが「正倉院の曝涼」だけは秋の季語です。
３、表彰受く菊師も菊も直立し 同上
面白い表現です。
４、紅葉狩子らを引連れ栂ノ尾へ 大森道生
「子らを引連れ」がやや未熟な感じです。「つれ立ちて紅葉を愛ずる高山寺」では。
５、敗戦日悲しき想ひ巡りきて 同上
６、釣果はと問えば自慢気籠の鯊 北川 稔
前句との付味は余りよくありません。
７、美術展並ぶ力作目を凝らす 同上
８、到来の松茸を焼くたのしさよ 同上
９、桜紅葉さらさら庭に散り積みて 田添豊光
１０、ジーパンで踊る若き娘村広場 千葉 繁
この句は恋の呼び出しになります。
１１、秋思せる娘の顔の大人びて 同上
「秋思せる」少しおかしな表現です。「秋あはれ」「秋の情」とでもした方がよいのでは、
この句も恋の呼び出しです。
１２、燕去り親子三代無事祈る 同上
１３、葛のつるはやくも巻ける地に住める 向笠和子
１４、秋白しおのれきめたる独り住み 同上
１５、正倉院曝涼の日に来合わせて 原田安恵
２、と同じような句。打越の月との関係で「日」は避けましょう。「正倉院曝涼に胸ときめかせ」では。
１６、数珠玉で作りし念珠まさぐりて 同上
１７、たたみ皺そっと撫でみる秋袷 同上
１８、つらつらと吉野太夫忌修めたり 同上
「つらつら」にはいろいろな意味がありますが、ここではつくづく、よくよく、
念入りにということでしょうか。
吉野太夫は江戸前期の京都の通人の灰屋紹益の妻となった島原の名妓です。
１９、ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り 原田安恵
２０、淡い色私の思ひ思ひ草 同上
思ひ草は別名きせる草、この句も恋の呼び出しになります。
２１、前列に芸妓もをりし菊供養 同上
「をりし」より「侍る」がよいでしょう。この句も恋の呼び出しになります。
２２、走り蕎麦自称江戸っ子音立てて 池田笑子
俳諧味のある面白い句です。
２３、縁側にふたりっきりの秋らふ 高野郁雄
この句も恋の呼び出しになります。
２４、霧に立つ銅像の足父に似て 同上
２５、車窓より連なる稜線うすもみじ 高野郁雄
「連なる」より「見ゆる」がよいと思います
２６、二胡の音に誘われてゆく花野道 荒井 慈
よい句なので一応入選にしましたが、「二胡の音」は脇の「風鈴の音」と同じなので
修正が必要です。例えば「二胡あわれ誘われてゆく花野道」位では。
２７、鶺鴒の瞬時に水面裏返す
２８、ななかまど黒白つけて別れ来し 同上
ななかまどの赤をバックに黒白の結論を出してきたという俳諧味が面白い句です。
２９、吾亦紅ひたすらに待つ恋の文 同上
この句も恋の呼び出しか或いはいきなりの恋句として面白いです。
３０、林檎食むアダアムとイヴの逃避行 同上
大胆な表現です。
３１、先見えぬ定命寿命菊枕 同上
定命とは仏教用語で人の寿命の一定していることで最長は八万四千歳、最短は十歳
だそうです。この句も面白い句です。
３２、菊人形源氏の恋の絵巻なる 同上
恋の呼び出しが多いですね。
３３、移り行く雑木紅葉のあづさ号 佐島和人
「あづさ号雑木紅葉の移りゆき」の方がよいでしょう。
３４、間を置いて鳴いて鳴き止む籠の虫 同上
３５、発奮し今日の家荀初滑子 同上
２，１５、と同じ理由で出来れば「今日」は避けましょう。「発奮し家荀とせる初滑子」
３６、佐渡の地に鳴き声高き桃花鳥 同上
桃花鳥は鴇の別名で晩秋の季語です。珍しい季語を出したのがこの句の手柄です。
以上の網掛け太字の１０句がなかなかの出来ですが、今回はその中から１９、の
ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り 原田安恵
を治定します。
この句は亡くなってからもう何年が経ったろうか、といろいろ回顧している訳です。
この句によって前句の伽羅の香を?きこめた忘れ扇のイメージもずっと増幅され、さまざまな
ドラマを思い描くことが出来ます。
次はウラの２句目です。秋はもう３句続きましたので雑の短句を付けて下さい。
題材は前句をよく考えた上で何でも結構です。今回も恋の呼び出しが沢山ありましたが、
恋の呼び出しでも結構ですし、また敢えて恋に拘る必要もありません。
連句入門（その５０）
いつもの通り前回のウラの折立までの句を復習しましょう。
オ 発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュウータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間とお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
六 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ 一 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
（注：オ＝オモテ、ウ＝ウラの意）
今回の課題はウラの二句目雑の短句を付けることです。
前句は「姉が亡くなってからもう何年が経ったろうか」と回顧している処で
述懐の句です。
ちちろ鳴くで三秋の句で、上り月・忘れ扇・ちちろ鳴くと秋が3句続きましたので
次は雑の短句をお願いした訳です。
前回のように決定的な失敗句はありませんでしたので佳作２８句から
勉強をはじめます。
１、庭の隅なる煙草難民
「煙草難民」とは煙草を吸う場所がないため、庭の隅に追いやられた人々という
意味でしょうか。
何となく分かりますが「煙草難民」なる言葉が日本語としてどこまで定着して
いるか、又何時まで生命があるか分かりませんので佳作としました。
２、遺産が左右老後の（4）お世話（3）
下七が４、３、でリズムが悪く老後の老は第三の老人と同字ですので佳作です。
「遺産次第で介護手加減」位でしょうか。
３、ビートルズなどもはや古しと
前句との付け味がよく分かりません。
４、太極拳の技をしづしづ
この句、前句とどこが付くのでしょうか。付け味が悪いので佳作にしました。
５、独り箸とる侘しき（4）食事（3）
下七４、３、のためリズムが悪い。「独り箸とる食事侘しく」でよくなります。
６、古希の祝いに届いた酒樽
前句が姉の忌でしみじみと回顧に耽っている句なのに急に祝いの酒樽は
余りにも唐突です。
また古希も第三の「老人」と同じイメージです。
７、閉め切り部屋のまた一つ増え
４、の「一時」と同じ数字の「一つ」は頂けません。
「使わぬ部屋のまたも増えたる」
８、孫にせがまれ綾取りの（4）遊び（3）
この句もリズムが問題です。「綾取り遊び孫にせがまれ」とすべきです。
９、向かい座席は和服の（4）佳人（3）
８、と同じ問題です。また「人」は使えません。
「和服の美女と向い合いたる」では。
１０、世界一周クルーズの旅
７、と同じく「一周」の「一」が4句目の一時と同字です。
また一周は前句の「巡り」と似たような感じですので
「島から島へクルーズの旅」とでもすべきです。
１１、賽の河原を行きつ戻りつ
前句とどんな関係になるのでしょうか。何だか回忌の姉さんが成仏できず
賽の河原をさ迷っている感じです。
作者の意図が分かりませんので直せませんでした。
１２、偽物なりしダイヤの（4）指輪（3）
この句も4、3、でリズムが悪いことが欠点です。
「ダイヤの指輪とんだ偽物」としては。
１３、一流画家の道の開ける
2、10、と同じく「一」の同字使用は感心しません。
「有名画家への道は険しく」では。
１４、星降る夜にプロポーズさる
大打越の五句目が「月」の句ですから「星」も「夜」も感心しません。
例えば「思ひもよらぬプロポーズ受け」では。
１５、最終駅の銀河鉄道
原句の意図がよく分かりません。
また14、の「星」と同じく「銀河」も大打越の「月」に障ります。
１６、週に一度のケーキ教室
また「一」が出てきましたね。
「もう古顔のケーキ教室」「男の多いケーキ教室」などいくらでも直ります。
１７、空欄残るジグソー（4）パズル（3）
ジグソーパズルがうまく出来ないで空いているところを「空欄」
というのでしょうか。
またこの句も4、3、でリズムが悪いようです。
この句を直すのは大変難しいのですが「ジグソーパズル遂に降参」
くらいでしょうか。
１８、枕片去る白き敷栲
「敷栲」とは寝床に敷いて寝る布だそうですが難しい言葉を使ったものです。
ただ「枕片」は何と読むのでしょうか、よく原句の言葉が分かりませんので
直せませんでした。
１９、ワイン談義のフランス料理
この句もリズムが悪いですね。「ワイン談義ではずむ食卓」位では。
２０、小川流るる笹舟ひとつ
この句も下七の4、3、を直しましょう。
「笹舟ひとつ流れゆく川」でよいと思います。
２１、従兄弟会とて温泉旅行
同じく下七の4、3、を直しましょう。
「従兄弟会とて温泉の旅」では。
２２、すったもんだの総裁の椅子
この句は時事句ですね。
時事句は余程具体的に詠まないと二三年位で後にはもう何のことだったか
わからなくなります。
この句の場合も総裁を日銀総裁と具体的にすべきです。
「日銀総裁やっと決着」位でしょうか。
２３、同窓会に老けし悪餓鬼
面白い句ですが矢張り第三の「老人」と同字でしかも同じイメージの句です。
２４、鮎落ちし里人影もなし
前句に「ちちろ」いう虫があるのに付句に「鮎」を出してもよいのかという
疑問が出そうです。
連句には「摺付け」というルールがあり同じ植物でも木類・草類・菌類等は類を
変えて二句続けて出してもよいことになっています。
この句は動物ですが矢張り四つ足類・魚類・虫類・など種類を変えれば二句続けて
出せます。（但し打越は不可）
また「人」も９、と同じく第三と同字ですから要注意です。
２５、河口に近く鱸網打つ
この句は詩的にはなかなか素敵です。
「鱸」はご存知の通り出世魚で秋の季語です。
２６、鮭のぼる川みちのくの端
「みちのくの端」とは何処でしょうか。
「みちのくどこも鮭のぼる川」では如何ですか。
２７、初鴨は昨夜渡り来りぬ
14、と同じく「夜」は大打越の「月」に障ります。
「渡り来りし初鴨の群」位です。
次は入選２９句です。
１、幼馴染と交わす目礼 大森道生
前句との付味もよく、恋の呼出しにもなります。
２、遠会釈して名前浮かばぬ 同上
３、マルクス説きし若かりし頃 同上
４、初めて会ひし文通の人 同上
５、悲しみの色深き彼の人 同上
4、5、も付句としては良い句ですが第三の「人」の同字が気になります。
６、金平糖をそっとつまめる 原田安恵
７、これから先は運否天賦よ 同上
８、そろそろ話題姪の縁談 同上
９、「後期高齢」語感刺立つ 同上
刺立つは何と読むのでしょうか。
若しいら立つなら「苛立つ」と書くべきです。
１０、我が物顔のお隣の人 同上
再三申し上げているとおり「人」が第三と同字であることが気になります。
１１、君のこころに灯をともしたり 高野郁雄
１２、心中覚悟哀れ道行き 同上
11、12、とも恋の呼び出しとしてもなかなかの句です。
１３、里への土産宅配で出し 北川 稔
１４、今朝も日課の木刀を振る 北川 稔
１５、旅先で会ふ運命の人 荒井 慈
矢張り「人」の同字が気になります。
「運命の君」とでもしますか。
１６、シャルウイダンス奥様お手を 荒井 慈
１７、病院中にひびく産声 同上
前句の姉の回忌との対比がよいですね。
１８回転鮨（寿司）屋いつも満員 佐島和人
「鮓」或いは「鮨」は夏の季語であることを知っておいてください。
余り気にすることはないと思いますが。
１９、石井桃子は雲の彼方へ 同上
満95歳のご冥福を祈りましょう。
２０、探偵小説誰が犯人
この句も「人」が気になります。
「このサスペンス誰の犯行」とでもすればどうですか。
２１、寄せては返す白砂の浜 田添豊光
２２、平和な国に笑顔こぼれて 同上
２３、池の面に立てる漣 同上
２４、思ひの丈を告げるすべなく 同上
２５、登りつめたる石の坂道 千葉 繁
２６、姪の目指すは宇宙飛行士 同上
２７、床の間飾る鶴の掛軸 同上
２８、駆け落ちばなし今は懐し 池田笑子
２９、生きるも地獄宿痾腰痛 同上
病態を詠んだ面白い句ですが「生きるも地獄」とは少し露骨すぎる感じです。
「長年縁の切れぬ腰痛」位では。
入選句の中でも網掛け太字の９句はなかなかの付句です。
今回はその中から
幼馴染と交す目礼 大森道生
を治定します。
姉の回忌に来てくれた人の中に幼馴染がいたのです。
この句は当然ながら恋の呼び出しになりますから次は雑の長句で恋の句を
付けて下さい。
連句入門（その５１）
今迄詠んだ処は次の通りです。
オ 発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュウータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間とお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
六 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ 一 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼
（注：オ＝オモテ、ウ＝ウラの意）
今回の課題はウラの三句目に雑の長句、それも恋の句を付けることでした。
実は皆さんの応募句を見て驚いたのですが、全くの失敗作はありませんでした。
これは皆さんが連かなり馴れて来たためであり自信をもって頂いてよいと思います。
ただ正直申し上げると逆に飛びぬけてすぐれた恋句もなかったため選句に苦労しました。
少し厳し過ぎるかなと思った句もありますが佳作１６句から勉強してみましょう。
佳作１６句
1、吾かにもあらず逢瀬を重ね来て
「吾かにも」とはどんな意味でしょうか、はっきりしないので佳作にしました。
「吾ながらかくも逢瀬を重ね来て」なら意味ははっきりします。
２、人妻となりたる君を遠く見て
前句が目と目で交す目礼なのにまた「見て」は感心しません。
「人妻となりたる君の楚々として」
３、デートではいつも遅れを詫びる女
句として欠陥はありませんが「女」を「ひと」と読ませるのは筆者が好きでないので
佳作にしました。
「デートにはいつも送れて来る女」
４、捉へたるバックミラーに彼の顔
前句が目礼を交しているのにまたバックミラーに彼の顔では顔を合わす句が二句続い
て変化がありません。「華やかにワルツを踊る鏡の間」
５、むずかる子の寝たとの合図若夫婦
前句が「幼馴染」なのにまた「子」をもってくるのはどうでしょうか。
「今からは若き二人の時間です」
６、見詰めつつ先ずは乾杯ロゼワイン
２や４と同じく前句が目礼なのにまた見詰めつつでは変化がありません。
「うちとけて先ずは乾杯ロゼワイン」
７、口下手は待つことばかり魚心
「魚心あれば水心」とは魚が好意を持てば水も好意をもって応えてくれる言う事だが
魚心だけではとって付けた感じです。
しかし13音もあるので句に詠み込むことはむずかしいでしょう。
「口下手も待てば海路の日和とか」
８、深い川想い隔てるごと流れ
この句は決して悪くはないが脇句に「流る」があるので修正します。
「河広し想い隔てて洋々と」
９、国ぶりの味評判のママの店
「国ぶり」少しおかしい。故郷の味ならまだ分かりますが。
「お袋の味が評判ママの店」
１０、今もある相合傘の深き彫り
これは幼馴染とどこかに相合傘の図柄を深く彫ったのが残っているということらしいのですが、
わかりにくい句です。
「今更の相合傘も味なもの」
１１、久に逢ふあの時のごと水車小屋
「久に逢ふ」とは久しぶりに逢ふということですが、あの時のように水車小屋で逢ったと
いうことなのかよくわかりません。
「水車小屋逢瀬重ねし仲なりき」
１２、想ひ成り軍師務めし友消へて
この句恋が成就したので軍師役の友が消へてくれたということでしょか、
矢張りわかりにくいと思います。
「恋の道友の指南のまま進み」
１３、手をにぎりジェットコースター絶叫す打越の句に「ちちろ鳴く」があり「絶叫」と
音を出すのは感心しません。
「手をにぎるだけの二人の遊園地」
１４、忘れゐし母校の校歌ハモりたるこれも１３、と同じく音を出すことは感心しません。
「なつかしきスナップ写真セピア色」
１５、頬よせてチークダンスの夜もすがらチークダンスを夜もすがらとは不自然ですし、
少し句柄も下品になります。
「リズムよきダンスに心通ひそめ」
次は入選３４句です。
１、それとなく愛確かむるメール打つ 大森道生
２、またしても焼け棒杭に火がついて 同上
３、マタニテイドレス着てゆくハネムーン 同上
４、明け方に二人で食べるカップ麺 同上
５、今やもう世話女房の顔をして 同上
６、何時からかキスで別れる仲となり 北川 稔
７、この頃は隣同士で座る仲 同上
８、お互いに初心だったよねあの頃は 北川 稔
９、そうなのよだから貴方に惚れたのよ 同上
１０、全身を熱い思ひの貫きて 池田笑子
１１、甦るウェストサイドストーリー 池田笑子
１２、ガス灯下相合傘の傾げをり 佐島和人
留字の「り」は打越にありますから「～の傾きて／を傾けて」とすべきです。
１３、かの人と繋いでみたし糸電話 同上
「糸電話」とは子供の電話ごっこの電話でしたら少し幼稚です。
「かの人と結んでみたし赤い糸」位にしましょう。
１４、二人だけの秘密の絵文字一つ増え 同上
１５、頬紅を濃く掃くわけは語らずに 原田安恵
１６、学歴と高収入が気に入って 同上
１７、絶ち切れぬ想い抱いてタラップを 同上
１８、「ケータイ」に絵文字のハート並びをり 同上
１２、と同じく「り」留は直さなくては。「並びゐて」では。
１９、恥じらひて触れる手と手に火花散り 高野郁雄
これも「り留」は直さなくてはなりません。また「火花散り」も少し大げさです。
「～血が通ふ／通ふ愛」とでもしては如何ですか。
２０、帰ろうと言えばいやいやお下げ髪 高野郁雄
２１、あれこれの想ひさらりと胸の内 田添豊光
２２、ときめきの胸の高鳴り抑え得ず 同上
２３、かき抱く胸に煙草の手は震え 同上
２４、待つことの出来ぬ体を持て余し 同上
２５、音信も途絶えて空し片想 千葉 繁
２６、恋心秘めて別れの鄙の駅 同上
２７、大空に恋打明し青き日や 同上
２８、二人して生きる喜び空青し 千葉 繁
２９、万葉の恋大らかに相聞歌 千葉 繁
３０、品のよき初老紳士のエスコート 荒井 慈
３１、恋みくじ小吉と出る京の寺 荒井 慈
３２、手をとりて映画慕情の丘上る 同上
３３、乾杯のカクテルの名の夢心地 荒井 慈
３４、変らない清き瞳の修道女 同上
入選の中でも網掛け太字印の9句がすぐれています。今回はその中から
「乾杯のカクテルの名の夢心地 荒井 慈」
を治定します。この句カクテルの名前が夢心地であるだけでなく、乾杯している
二人も夢心地なのでしょう。
面白い恋の句です。
次はウラの四句目で雑の短句です。もう1句恋の句を付けて頂いても、
或いは恋から離れてもどちらでも結構です。
連句入門（その52）
連句を巻き進めるには、今までの進行状態をよく見ておくことが大切です。
オ 発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュウータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間とお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
六 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ 一 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼
三 乾杯のカクテル名の夢心地
（注：オ＝オモテ、ウ＝ウラの意）
さて今回の課題はウラの四句目の雑の短句を付けることです。
もう一句恋の句を付けても、或いは恋から離れてもどちらでも結構と申し上げました。
前回と同様皆さんの付句も次第に上達して全くの失敗作はありませんでした。
それでは佳作１７句から見てゆきましょう。
１、乳を飲ませる図解マニュアル
やや意味がはっきりしないので佳作にしました。
「授乳を学ぶママの教室」の意味か。
２、小豆相場で大金持ちに
経済を出したのは面白いと思います。ただ、「小豆」は秋の季語です。
（この場合は季感のある小豆ではありませんから失敗作とはしませんでした。）
「商品相場浮きつ沈みつ」位では。
３、五常にそむき夫婦別々
五常は儒教の道徳で父子の親、君臣の義、夫婦の別、長幼の序、朋友の信、で夫婦の別は夫婦が
夫々しっかりけじめをつけるといった意味です。
従って五常にそむいた結果夫婦別々になるとは少しぴん来ません。
下七は「家庭崩壊」位でしょうか。
４、強気高じてノラの泣き声
脇の風鈴ウ一句目月のちちろ鳴くと既に音が二箇所出ており泣声は感心しません。
「ノラにはなれぬ教師妻とは」では。
５、悲喜こもごものピエロの（4）戯け（3）
毎回申し上げているリズムの問題です。「おどけの中にピエロ悲しき」としては。
６、転がり込みしまさかの（4）勝利（3）
この句もリズムを気にしてください。「まさかの勝利得たる幸運」です。
７、実りし恋にやんやの（4）喝采（3）
これも同じです。「目出度きゴール皆の祝福」としては。
８、意外な友の出来て飲む酒
前句のカクテルがあるのに続けて酒を出すのは感心しません。
「意外な友の出来し幸運」では。
９、かねておもいひし君に文出す
前句で乾杯し夢心地になっているのに今頃恋文を出すなど恋の後戻りです。
１０、調べやさしきオルゴール鳴る
４、の句と同じで音を出すのはもう少し間を離してからにしたい処です。
１１、にぎらされたる不渡り（4）手形（3）
この句もリズムを直しましょう。「不渡り手形つかまされたる」
１２、魔法のとけてただの老人
第三に老人がありまた同じ老人を出すことは感心しません。
下七は「もとに戻りし」位にしましょう。
１３、止めぬ大酒が恋のつまずき
８、と同じく前句のカクテルに続いて酒は頂けません。
「甘え過ぎしが縁の切れ目に」とでもしては。
１４、三本立ての映画に（4）疲れ（3）
この句もリズムを直したい処です。下七は「映画疲れる」にしては。
１５、二人の写真は全く処分し
この句はどんな状況をイメージしているのでしょうか。やや唐突でよく分かりません。
１６、別れて帰る夜道の（4）暗さ（3）
これも少し手を入れてリズムをよくしましょう。
下七は「夜道恐ろし」でよいのでは。
１７、何を訊いても知らぬ存ぜぬ
やや唐突で前句と付かないと思います。
「何が本音で何が嘘やら」位ならまだ許容範囲ですが。
次は入選２８句の勉強です。
１、ふふふふふふと蕾ふくらむ 大森道生
２、祝儀袋に入れる新札 同上
３、鳥も通わぬ島に転勤 同上
４、こむら返りに悲鳴上げたる 同上
この段階で病態を出したのは面白いので入選にしました。
但し、「悲鳴」の「鳴」は大打越に「いちろ鳴く」がありますから
「こむら返りの痛さこらへる」とでもしたは如何ですか。
５、寡婦の暮らしに少し馴れたる 同上
６、肩を並べて古都の散策 佐島和人
７、ガス灯烟る敷石の道 佐島和人
原句でもよいが「煉瓦の道に烟れるガス燈」とした方が更によいかもしれません。
８、古希の夫婦に孫の折鶴 千葉 繁
９、待ちに待ちたる孫の誕生 千葉 繁
１０、思いの外に早き定年 同上
第三の「老人ばかり住む町に」が少し気になります。
１１、悔いの残りし学生時代 田添豊光
どんな悔いか分かりませんが面白い句です。
１２、肩を寄せ合ひオーロラの前 荒井 慈
「オーロラの前」より「仰ぐオーロラ」としては。
１３、数寄屋橋にて待ち呆けなる 同上
「君の名は」のイメージで数寄屋橋を出したのでしょうか、少し唐突です。
１４、訓練中の宇宙飛行士 同上
この句も恋の相手が宇宙飛行士なのでしょか。「訓練中」はやはり唐突です。
「あこがれの的宇宙飛行士」位でしょうか。
１５、午前零時のシンデレラなる 同上
発想はよく分かります。
ただウラの七句目が月の定座であることを考えると午前零時は言い換えたいと思います。
「ガラスの靴でシンデレラゆく」としては。
１６、母の危篤の知らせ届きぬ
一応入選にしたが大打越に姉の回忌がありながら、また母の危篤はどうでしょうか。
「先祖にならひ進む医の道」と転じたら面白いでしょう。
１７、突然の地震生き別れなる 同上
１８、後家のつっぱり顔に出でたる 荒井 慈
１９、五輪本番北京中継 池田笑子
原句は五輪直前だがそれでは時間的に非常に限定されます。
２０、野口みずきは連覇挑戦 同上
２１、老いたる馬は道を忘れず 同上
再三申し上げるように「老」の字は第三にあり馬でも使いたくありません。
「賢き馬」とした方がよいのでは。
２２、何も言わずに去ってゆく彼 北川 稔
２４、夫婦茶碗の片方が割れ 北川 稔
２５、盲導犬の主気遣ふ 同上
２６、余生の朋と子犬贈られ 同上
２７、単身赴任これで三度目 同上
２８、若きらは皆メール打ちおり 高野郁雄
大打越の留字が「り」ですからここは「打ちおり」ではなく「自在に」とでもしまし
ょう。
入選句の中でも網掛け太字の句は特にすぐれています。今回は、
「夫婦茶碗の片方が割れ 北川 稔」
を治定します。なにも具体的に言わないで、恋の行方を暗示したような面白い句です。
次はウラの五句目で雑の長句を付けて下さい。
特に制約はありませんがウラの七句目が、月の定座ですので、
そこに冬の月の句を出したいと思います。
従って五句目は月の句の打越になりますので月に障るような句は出さないことです。
連句入門（その５３）
今回はまたまた筆者の都合で選評が大幅に遅れましたことを深くお詫びします。
さてこれ迄の進行を振り返ってみましょう。
オ発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間でお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
折端 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ折立 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼
三 乾杯のカクテルの名の夢心池
四 夫婦茶碗の片方が割れ
五 「覆水は盆に還らず」家訓とし
従って次はウの六句目冬の短句が課題でした。そして七句目が月の定座ですので、天象や
高いもの、光る物などは出さないで欲しいとお願いした筈です。
今回も全くの失敗作は殆どありませんでしたが次の４句は失敗作です。
１、冬をさかりに椿咲くなり
椿は春の季語でこの句は異季の季重りです。「今をさかりと寒椿咲く」では。
２、翁媼の落葉掃く音
オモテ第三に「老人」があります。連句は同じものは繰り返しになりますから
出来るだけ出さないことです。
そしてこの作品は半歌仙と短いのですから「老人」と「翁媼」は禁物です。
３、かまど猫居る御隠居の膝
２、と同じく「御隠居」も「老人」です。
４、山あいの宿香るゆずの香
「ゆず＝柚子」は秋の季語です。
それでは佳作１９句を勉強しましょう。
１、三代揃ひけとばしが好き
「けとばし」は馬肉の俗称ですが厳密にいうと季語ではありません。
季語は「桜鍋」です。「桜鍋もて精をつけたる」くらいですね。
２、日本に残る越冬燕
月前ですから「日本」の「日」はなるべく出したくありません。
「越冬燕橋下に棲む」ではどうですか。
３、咳こぼしゐる独り居の夜
月前ですから「夜」は感心しません。
４、炬燵の母の瞰入るアルバム
この句は同じ折の折立に家族の「姉」があり、また前句に「夫婦」がありますから
「母」は重複感があります。「炬燵で皆が囲むアルバム」ではどうですか。
５、やかまし姑手の胼（4）切れて（3）
４、と同じ理由で「姑」は避けたい処です。
また（4）、（3）でリズムもよくありません。「皸の手に吹きかける息」くらいです。
６、心冬ざれ離婚慰謝料
打越に夫婦がありますから「離婚」は不可です。「交通事故の慰謝料がもめ」では。
７、瞼に浮かぶ冬帽の祖父
４，５、と同じ理由で「祖父」は感心しません。
「ちょっと気取って洒落た冬帽」なら良い句になります。
８、何とかなると湯豆腐（4）つつく（3）
「つつく湯豆腐」にすればリズムがよくなります。
９、七転八起を秘めて待つ春
上七が「七転八起を」と9音になり大幅な字余りです。
「失敗しても春を待ちます」くらいですか。しかし前句とやや矛盾します。
１０、日の短かきを嘆く職人
良い句ですが２、と同じく月前に「日」は出したくありません。
１１、名もなき沼に水鳥の群
前句に覆水と水があるのに同字の水は感心出来ません。
「名もなき沼に遊ぶ鴛鴦」とでもすべきです。
１２、冬ぬくき日に一人発つ旅
２，１０、と同じく月前の「日」は感心しません。
１３、睦むことなく廻る冬蝶
「廻る冬蝶」とはどんなことか意味がはっきりしません。
「足にまつはる凍蝶の影」くらいではどうですか。
１４、律儀な父の塞ぐ北窓
４、５、７、と同じく「父」は避けたいと思います。
１５、浄土ヶ浜に消へる初雪
悪い句ではありませんが「初雪」は天象で月の前は余り感心しません。
１６、浮世の義理を欠く（2）頬被（5）
「頬被りして不義理する身に」とリズムをよくしましょう。
１７、嬶座譲りて日向ぼこせり
４、５、７、１３、と同じく「嬶」は避けたい処です。また２、１０、１１、
と同じく日向の日も避けましょう。
１８、鋤焼囲む大家族なり
４、５、７、１３、１６、と同じく「家族」は出したくありません。
「社長も部下も囲む鋤焼」としては。
１９、茶の花明り待合の席
少し厳しすぎるかもしれませんが、月前に「明り」は避けたいものです。
「茶の花白し待合の垣」くらいですか。
最後は入選２４句の鑑賞です。
１、大くっさめを憚りもなく 大森道生
ユーモラスな俳諧味があり、病態をさりげなく出したのもよいと思います。
２、釜揚うどん桶にたっぷり 同上
３、食べたし怖し虎河豚の肝 同上
特に悪くはありませんが、芭蕉の時代から河豚が怖いという句は沢山あります。
４、皸癖は父の遺伝子 同上
１、と同じく病態を出したことはよいでしょう。
５、伝家の宝刀凍てつく（4）刃（3） 高野郁雄
発想は面白いので入選にしましたが、矢張りリズムを直したいものです。
更に「伝家」の家は前句の家訓に同字があります。
「抜かんとすれど凍てし名刀」くらいなら面白い句です。
６、おでん囲みて侃々諤々 千葉 繁
「侃々諤々」は字余りです。字余りは上句に持って行ったほうが収まり
よくなります。「侃々諤々おでん囲みて」
７、除夜の鐘聴き未練断ち切る 千葉 繁
釈教の句であり、一方恋句とも取れますが悪くないでしょう。
８、葱だけ残る鋤焼の鍋 北川 稔
打越に「茶碗」がりますから出来れば鍋は出さない方がよいでしょう。
「何故か葱だけ残る鋤焼」
９、着た冬服に虫食いの穴 同上
１０、籠からミカンころり落ちてる 同上
「ミカン」を片仮名にしたのは何か意味があるのですか。
１１、泰然自若雪だるま殿 北川 稔
面白い付句です。
１２、吐く息白く続くジョギング 池田笑子
１３、犬の散歩に羽織るジャケット 同上
自分が着るのもよいが犬に着せるのも面白いかも。
例えば「散歩の犬に洒落た冬帽」
１４、枯蘆原を棹さして行く 田添豊光
この作品ではまだ水辺が出ていませんから、水辺と舟はよいでしょう。
１５、風邪の順番ポチが最後に 佐島和人
犬の病態が出て面白い句です。
１６、箸の先から逃げる煮凝 佐島和人
１７、一輪だけで目立つ冬薔薇 同上
１８、濁世をしらぬ裸木の山 同上
１９、女将の作るホットドリンク 荒井 慈
一応入選にしましたが大打越に「カクテル」がありますので飲み物はやや近すぎです。
２０、応接室のペルシャ絨毯 同上
２１、千両万両庭を彩る 同上
２２、幸せ色の蜜柑山なり 荒井 慈
何となく微笑ましい句です。
２３、仏壇の供花白き冬菊 同上
「供花」は花という字を使わないで「供華」の方がよいでしょう。
２４、ちゃんちゃんこ着て使ふ算盤 同上
「算盤」は使ふより「弾く」の方が普通です。
網掛け太字の５句はなかなかの句です。今回はその中から
「大くっさめを憚りもなく 大森道生」
を治定します。
次はウラの７句目で月の定座です。冬の長句で月を詠んでください。
ご存知だと思いますが、冬の月・凍月・寒月など月自体を冬にしても結構ですし、
或いは冬の季語と月を一緒に詠んでも冬の月の句になります。
前の月の句（オモテ５句目）をよく見て、同じような月の句にならないよう注意することです。
年末年始は皆さん多忙でしょうから、
連句入門（その５4）
今回の課題は冬の病態の前句「大くっさめを憚りもなく」に冬の月の句を付けることでした。
それではこれまでの進行を復習します。
オ発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間でお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
折端 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ折立 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼
三 乾杯のカクテルの名の夢心地
四 夫婦茶碗の片方が割れ
五 「覆水は盆に還らず」家訓とし
六 大くっさめを憚りもなく
前回も申し上げたとおり、皆さんは大分付句に習熟された結果殆どが入選句でした。
ただ勘違いのため２句失敗作がありましたので先ずそれを勉強します。
失敗作
１、霜月や水にとどまる鳥の影
ご存知の通り「霜月」は陰暦１１月のことで、天体の月ではありません。
従って冬の月を詠むという課題から外れています。
また「や」の切れ字も感心しません。
２、清らなる満月眺む坂の上
この句には冬の季語がありませんので秋の月の句になります。
「坂の上寒満月を仰ぎたる」とすればよい。
次に佳作３句を見てみます。
１、冬の月光り豊かにささやけり
失敗作の１、の処でもふれたように連句では発句以外は切字は使わないことになっています。
連句は次々と付け進むものだからです。
この句、句としては悪くないのですが「けり」という切字が問題です。
「冬月にささやく如く光りあり」では。
２、濡れ場にもなお冴々と冬の月
「濡れ場」（正しくは「濡場」）は情事の場面で当然恋の句になります。
連句では恋句は必ず出すのですが、この作品ではウラの３～４句目に恋が既に出てをり
この句とは間に２句しかありません。
一巻に恋が一ヶ処とは限りませんが余り近くに続けて出すのは全体のバランスが崩れます。
３、一隻の屏風の月の影静か
この句の月が屏風に描いてある月ならそれは真正の月ではなく虚の季語になります。
また屏風を数える単位は隻でなく双です。
「一双の屏風の月に月の光ゲ」とでもすれば月を描いた屏風に本物の月光が
射していることになります。
最後に入選４０句です。
１、月ゆがむ池に寒犬牙剥きて 大森道生
何か不気味な句です。池に映る歪んだ月を見て寒犬が牙を剥いているのでしょうか。
２、不忍池に浮かぶ月影枯蓮 同上
３、稽古着の皇居を二周寒月下 同上
寒稽古のあと皇居をジョギングで廻っているのでょうか。
「寒月下」より「月寒し」の方がよいでしょう。
４、マウイ沖に鯨のジャンプ月の舟 大森道生
「鯨」は冬の季語だしこれまでに地名も出ていませんからマウイ沖も結構です。
新しい発想の月の句です。
５、影踏みつ携帯電話月冴えて 同上
６、寒月を浮かべ露天湯独り占め 同上
７、質屋へと月下を急ぐ頬被 大森道生
一巻の中には経済や金銭的な句が入るのも良いと思います。
質屋も季語の頬被も面白いし前句にもよく付きます。
８、寒の月合掌屋根にしんしんと 田添豊光
オ５句目の月の句は月が上五にあるのだから、この句は「合掌屋根しずまり返り寒の月」
とした方がよい。
９、多摩川をなべて照らすや冬満月 同上
10、除夜の鐘数えて月の渡りゆく 北川 稔
１１、酉の市見栄の熊手を月笑ふ 北川 稔
見栄で買った大熊手を見て月が笑っているという句で、俳諧味があります。
また酉の市は大鳥神社の祭礼につき神祇の句。
１２、鯛焼きの熱きを抱へ月夜道 同上
「鯛焼」も冬の季語です。この句も前句との付味がよい句です。
１３、雪の庭足跡くっきり月明り 同上
１４、火の用心中天高く月昇り 同上
入選にしましたがオモテの月の句も「上り月」とありますので「月昇り」は
もう一工夫欲しい処です。
「月渡る」としてはどうですか。
１５、万両の月の光になお赤く 同上
１６、初場所の余韻噛み締め仰ぐ月 同上
１７、年の瀬の月は不況に身を削り 高野郁雄
７、と同じく「不況」で金銭を出し、しかも月が身を削ったとしたことで
よい時事の句となりました。
１８、凍月の出もの腫れものあばた面 同上
「あばた面」はわかりますが、「出もの腫れもの」はどこから来たのでしょうか。
前句も病態なので病態が２句続くことになりやや気になります。
１９、冬木立まんまる月を掲げたる 荒井 慈
２０、音響のよきホール出て寒の月 同上
２１、梟のうしろ向きたる森の月 同上
月の句に梟（冬の季語）をもって来た感覚は素晴しいと思います。
ただうしろ向きがよくわかりません。「梟の眼のくりくりと月仰ぐ」では。
２２、鍋焼の黄身の崩るる月の暈 荒井 慈
この句の発想も面白いし前句によく付きます。
２３、琵琶の音の激しく低く寒の月 同上
２４、焚火の炎風に煽らる月の浜 同上
２５、公園の池に飛び石月冴ゆる 同上
２６、木菟の小首傾げる月明かり 佐島和人
２１、の梟とならんでよい発想です。「小首傾げる」が利いています。
２７、番鴛鴦月のひかりに寄り添ひぬ 同上
２８、凍鶴の一声上げる眉の月 同上
２９、冬木立外燈点る雨の月 同上
「雨の月」も面白い趣向です。
３０、拍子木の音遠ざかる凍る月 同上
「遠ざかる」と来てまた「凍る」は修正した方がよいでしょう。
「拍子木の音の去り行き月凍る」でしょう。
３１、銀竹の青き月影縦横に 同上
「銀竹」は氷柱のことだそうです。
３２、火事の声野次馬急ぐ月の夜 千葉 繁
「火事」もなかなか詠む機会のない季語です。
３３、派遣村仮設テントに月凍つる 同上
「派遣村」とは昨年暮れのマスコミの造語ですが、日本語としては何時まで
寿命があるか疑問です。
３９、忘年会終へて眺むる月二重 同上
「月二重」とは酔って月が二重に見えるのでしょうか。
４０、夜回りの柝の響きや月までも 同上
入選句の内網掛け太字の６句は特によい句です。今回はその中から１７、
「年の瀬の月は不況に身を削り 高野郁雄」
を治定します。次はウラの８句目、雑の短句を付けて下さい。
特別のコメントはありません。前句を睨み、今迄勉強したことをよく考えて付句を
工夫しましょう。
