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連句入門（その５９）
さあ！いよいよ花の句ですが、勉強のはじめに必ず今までの進捗状況を読み直し確認しましょう。
オ発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間でお茶の一時
五（月）上り月みがきこまれし能舞台
折端 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ折立 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼 （恋）
三 乾杯のカクテルの名の夢心地 （恋）
四 夫婦茶碗の片方が割れ （恋）
五 「覆水は盆に還らず」家訓とし （恋）
六 大くっさめを憚りもなく
七（月）年の瀬の月は不況に身を削り
八 カレーライスはママが一番
九 提督のつまし好物語り草
十 艦橋に立ち想ふ百年
皆さんの花の句は殆どがなかなかの出来栄えでしたが、失敗句が3句ありました。
それは「花」でなく「桜」と詠んだ句です。
前回にも繰り返し申し上げました通り、連句の「花の句」は確かに春の桜を詠んでいるのですが、
「花」という言葉に桜をはじめあらゆる春の花を代表させているので、必ず桜でなくて花と
言わなくてはなりません。
「桜」では「花の句」になりませんので、このことをよく憶えておいて下さい。
（百韻では若干の例外はあります）
その失敗作とは
１、阿弥陀堂枝垂桜のその奥に
「枝垂れし花の」とすれば花の句です。
２、なお盛り左近の桜平安宮
この句は御所の左近の桜を詠んだのでしょうが「左近の花」とは多分言わないでしょうから、
一工夫必要です。「花万朶左近の桜その中に」とでもしては。
３、参道の桜を愛でつ墓参り
「墓参り」とすると秋の季語になります。
「道々の花を愛でつつ父祖の墓」とすればよい句です。
次は佳作ですが、意味がややはっきりしない句を中心に9句あります。
１、ブルースの調べにのりて花の雨
雨に濡れている花がブルースの調べに乗ってどうしたのでしょうか。
それともブルースの調べにのっているのは雨なのですか。
何れにせよよく分かりません。「ブルースのゆるき調べに花の雨」では。
２、霧晴れて若葉の花が浮かび出る
「霧」は秋の季語、「若葉」は夏の季語、そして「花」は勿論春の季語ですから、
この句は作者の不注意による異季の季重りの三重奏です。
「晴れわたるみ空に花の咲き初めて」
３、若き日に花を贈りし娘は如何に
この句は若いとき花を贈ったあの娘は今どうしているだろうかといった懐古の句です。
従って花は今現在ない訳ですからは花の句として成り立つか疑問です。
「花贈りし昔を偲ぶ花の夜」とでもすればはっきりした花の句になります。
４、花びらの青ざめてゆく石畳
花びらが青ざめるとはどんな状況ですか。「花片々風に舞ひたる石畳」
５、飾り窓の花魁の下駄花の雨
何故ここで下駄が出てくるのかわかりません。またこの句は恋の句になります。
「飾り窓の遊女の愁い花の雨」でよい句にはなりますが前句との味付は今一つです。
６、散る花の狗犬の鼻くすぐりぬ
原句は上記の通りなのですが「狛犬」の間違いでしょう。
７、セピア色の父母の写真は花の中
この句若しセピア色の写真の父母が花の中にいるのなら３、の句と同じように花は
現存しないのですから花の句になりません。
「セピア色の父母のアルバム花の昼」とでもすれば花の句です。
８、天を舞ふ人工衛星飛花落下
「落下」は「落花」の間違い？
９、四次元に迷い込みたる花便り
わかったようなわからないような句なので佳作にました。
次は愈々入選３７句の勉強です。
１、花びらのひらりと釈迦の手のひらに 北川 稔
「掌に」の方がよいでしょう。
２、花びらの鳥居の上まで舞い上り 同上
「大鳥居より高く舞ふ花片々」
３、文豪の愛せし宿の花篝 割田容子
４、花灯し衣装箪笥に黄楊の櫛 割田容子
５、書院には凛と設らふ花の籠 同上
６、花の雲小袖着流す女子大生 割田容子
よい句ですが恋句になります。
７、花の雲和紙工房の黙しをり 同上
句としては悪くありませんが「り」の留字は三句去りです。
「黙の中」とでもしては。
８、花の雨きゅきゅきゅと締める博多帯 同上
９、当選の花束受けて世直しへ 千葉 繁
一応入選にしましたが「花束」は普通のブーケのような感じです。
「世直しへ当選祝ふ花一枝」とでもしては。
１０、願いこめ花の参道行く親子 同上
１１、振り返る我が生き様や花の寺 千葉 繁
１２、風に揺る盛り過ぎたる庭の花 同上
１３、もの言はぬ地蔵の見ている花吹雪 高野郁雄
「もの言わぬ」はやや蛇足です。「花吹雪お地蔵様もご覧じよ」としては。
１４、偲ぶ人多き白寿の花の季 同上
前句に「想う百年」があるので似たような句が続いてしまいます。
「白寿我れひとり迎ふる花の季」とでもしましょう。
１５、戦いの歴史に生きし花古木 同上
「幾度も戦ひを見し花大樹」
１６、悠久の祖国よ学徒花と散る 同上
この句も花が単なる学徒兵の散りざまの表現ともとれます。
「花と散りし学徒を称ふ花万朶」ならはっきりします。
１７、一条の光の中に花ゆれる 田添豊光
１８、伝統の踊りを真似る花の下 同上
「踊り」は秋の季語ですし、伝統の踊りとは何でしょうか。
「歌舞音曲次から次へ花の宴」
１９、花筏流れの先の屋敷神 荒井 慈
屋敷神は屋敷内に祀る神様のことですから、この句の通りなら屋敷の中に
川が流れていることになりやや不自然。
「産土に至る小流れ花筏」
２０、花朧飛天は衣をたなびかす 荒井 慈
２１、くわんおんの瓔珞揺るる花明り 同上
２２、わだつみの母なる海へ飛花落花 同上
「わだつみ」は海神又は海のことですから原句は重複。
「海にまで風に乗りたる飛花落花」
２３、大仏の手の水掻きの花筏 同上
大仏の手に水掻きがあるかどうか、あっても花筏とどう結びつくのか、分かり難い句。
２４、花魁の行列続く花の門 荒井 慈
２５、一輪車ピエロの上る花の雲 同上
２６、花の奥見返り地蔵微笑めり 佐島和人
７，１７、と同じく「り」の留め字を変えること。下五を「笑み給ふ」とすること。
２７、廃校に人の集ひて花の宴 佐島和人
２８、流鏑馬の発止の甲矢に花吹雪 佐島和人
２９、移りゆく世に変わらざる花の色 同上
３０、伝説の姫の囁き花の湖 同上
「恋句」になります。
３１、蔵王堂世界遺産の花に危機 大森道生
３２、争ひなき世を願ひ花祀る 同上
３３、花の寺いつか師匠の句碑建てむ 同上
３４、付き添ひは看護ロボット花の雨 同上
３５、石油より太陽光へ花ロマン 同上
エネルギー源の変遷を詠んでいるのでしょうがややわかりにくい。
「花ロマン」も不自然、大変難しいが「温暖化防ぐ智慧出せ花万朶」くらいか。
３６、再軍備あるやも知れず花の冷え 同上
「提督」「艦橋」「軍備」と三句続くのは不味い。
「人は何故諍ふのやら花の冷え」としては。
３７、ロケットで宇宙へ旅行花の季 同上
この中でも網掛け太字の5句はなかなかの佳句です。
全体にただ花の句を詠むことに集中した感がありますが、皆さん前句との
付け味はどこまで考えましたか。
花の句はそれ自体大切な句であり、前句との関係も文字通り不即不離、余りこだわらなくても
よいのですが、連句である以上付け味を検討する癖をつけることも心がけましょう。
今回は網掛け太字の中から
「流鏑馬の発止の甲矢に花万朶 佐島和人」
を治定します。
前句との付け味も転じも上々ですし、これで神も出ました。
次はいよいよ挙句です。特にやかましい心得はありませんが、この半歌仙が目出度く巻き上がるよう
春の短句をつけて下さい。
花の次ですから植物は不可です。
例によって何句でも結構です。
締め切り：11月5日（木）
宛先：〒２２７－００４７ 横浜市青葉区みたけ台２－２２ 臼杵游児宛
連句入門（その５８）
この半歌仙もウラの１０句目、全体で１６句目まで参りました。
例によって今までの句を復習します。
オ発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間でお茶の一時
五（月）上り月みがきこまれし能舞台
折端 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ折立 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼 （恋）
三 乾杯のカクテルの名の夢心地 （恋）
四 夫婦茶碗の片方が割れ （恋）
五 「覆水は盆に還らず」家訓とし （恋）
六 大くっさめを憚りもなく
七（月）年の瀬の月は不況に身を削り
八 カレーライスはママが一番
九 提督のつまし好物語り草
扨、今回の課題はこれに雑または春の短句を付けることでした。
皆さん大変上達ですので完全な失敗作は３句だけでした。
どちらも何か季節の勘違いによるものです。
１、五穀豊穣世は波静か
豊年とか豊作は秋の季語です。この句は五穀豊穣ですから
少しニュアンスは違いますが矢張り秋の感じです。
２、独りヨットで世界の海へ
ヨットは夏の季語です。「独り世界の海へ乗る出す」とでもすれば大丈夫です。
３、行き交ふ舟に百合鴎群れ
百合鴎（都鳥）は冬の季語です。「行き交う舟に鴎群れ舞ふ」とでもすればよい。
次は佳作１２句です。
１、羅針儀なくて白鳥（4）帰る（3）
例によってリズムの問題です。下七を「帰る白鳥」にすべきです。
２、馬鈴薯植えて煙草吹かせり
「馬鈴薯植える」は春の季語ですが、次が花の句ですからなるべく植物は
出したくないことと、何よりも留字がウ７句目、つまり大打越と同じ「り」になって
いることが問題です。
（大打越： 七（月） 年の瀬の月は不況に身を削り）
３、名残の雁の渡りゆくなり
これも留字の「り」が気になります。「渡りゆく見ゆ」とすればよいでしょう。
４、漢黙して麦を踏むなり
これも留字の「り」を直しましょう。「沈黙のまま進む麦踏み」とでもしては。
５、摘草籠にハーモニカ吹く
「摘草」はやはり植物的な春の季語ですから花前には余り適当ではありません。
もう一つ留字の「く」も４句前にあります。
「春の山へと吹けるハモニカ」くらいでは。
６、採れたて若布味噌汁の具に
「味噌汁」は食物ですが、同じ食物の「カレーライス」が打越にあります。
「採れたて若布干せる砂浜」でよいでしょう。
７、着る礼服は傷み烈しく
矢張り留字の「く」を直しましょう。「礼服までも傷み烈しき」
８、コート片手に春の街行く
この句も留字の「く」が問題です。「春のショールで急ぎ行く街」でよい句です。
９、一汁一菜厳しき修行
「一汁一菜」は食物ですから６、と同じく打越の「カレーライス」に戻ります。
「厳しき修行続く道場」で如何。
１０、神話の世界伝ふる（4）古事記（3）
着眼の非常によい付句ですがリズムが問題です。「古事記もて知る神の代のこと」
１１、天を仰ぎて漢詩吟ずる
１２、天気予報は曇後晴
この両句とも大打越に「月」があるので「天」は避けたいと思います。
11、は「音吐朗々漢詩吟ずる」 12、は「予報通りに黄沙降り来る」にしては。
最後に入選２９句の勉強です。
１、駱駝の列がゴビの砂漠を 大森道生
前句との付け味を疑問視する人もいるでしょうが、東郷大将との連想からロシア、
中国、蒙古等が浮かんできます。またこの連句では四っ足が出ていませんから駱駝も結構です。
２、ペンキ塗りたて舟に貼紙 同上
３、珊瑚の森の白化現象 同上
４、坂の上なる雲を目指して 大森道生
５、正岡子規の俳句革新 同上
この句もやや間接的な付味です。連合艦隊の秋山参謀との関係などから出てきたものでしょう。
この連句ではまだ人名も出ていませんからその点でも面白い付句です。
６、桜島より灰流れくる 同上
７、世界を巡る春のクルーズ 荒井 慈
８、義士祭に人集まって来し 荒井 慈
４月１日から３０日まで高輪泉岳寺で行われるお祭りです。
９、カーニバルの夜旅は終りぬ 同上
１０、絵凧の武者の髭の雄々しき 同上
１１、艦橋に立ち想ふ百年 北川 稔
提督と艦橋ではやや付き過ぎですが想ふ百年はなかなかよい発想です。
１２、ボートレースか岸の賑はひ 同上
１３、明治の御代は遥か彼方に 同上
１４、西郷どんの連れ犬の名は
連れ犬は少し乱暴です。「西郷どんの犬の名は何」としたほうがよいでしょう。
１５、万骨枯れて鬼哭啾啾 高野郁雄
１６、志立て郷関を出づ 同上
１７、郷土の誇り海山の幸 千葉 繁
１８、欲しがりません贅沢は敵 同上
１９、北前船の帆を上げる春 佐島和人
２０、尻尾を振って媚びる番犬 同上
２１、縁の綾に忙しき神 佐島和人
神を出したことはよいのですが「縁の綾」というと何か恋句的です。
２２、隣の三味に耳をそばだて 同上
２３、運の行方を当てる八卦見 同上
２４、かすかに聞こゆ潮騒の音 田添豊光
この半歌仙では脇に「ほのかに流る風鈴の音」がありますから、
「ひたひたと寄る春の大潮」くらいにしては。
２５、大桟橋に出航の銅鑼 同上
２６、面舵いっぱい風もようそろ 田添豊光
２７、写真立てには愛犬のボス 池田笑子
２８、遺影の父のチャップリン髭 池田笑子
２９、籠のインコの歌ふカチューシャ 同上
網掛け太字の句はなかなかの付句です。今回はその中から
「艦橋に立ち想ふ百年 北川 稔」
を治定します。
艦橋とは普通の船で言えば船橋で、船長や艦長がそこで船の針路を指揮するところです。
この句はそこに立って日本の近代の百年を回顧しまた将来の百年の行方に想いを
巡らせているということでいろいろ考えさせられます。
また花前の句の大切なことは次の花の句が付けやすい句でああるということです。
この句、花の句がそんなに付けやすいとは思いませんが、かなり抽象度の高い句なので、
いろいろな角度から多様な花の句を考えることが出来ます。
さて次はいよいよその花の句を付けて頂くわけです。和歌では「花」といえば「桜」を
指しますが、連句では「花の句」は桜を中心に四季に咲く花々の美しさ含めて
賞玩の総称を意味するのが「花」です。
従って単に桜とか桜の花としてもそれは「花の句」の扱いにはなりません。
必ず「花」と詠んでください。
もうひとつこの半歌仙をあと２句で巻き上げるに当って、神祇・釈教のどちらかを
この２句の中で出して頂きたく頭の中に入れておいて下さい。
歌仙一巻の中には神祇（神様）と釈教（仏様）の両方を詠み込むことが必要です。
これは半歌仙ですから片方だけでも結構ですが、今までの１６句ではどちらも
出ていません。
従って次の花の句か最後の挙句のどちらかに神様か仏様を詠まなくてはならないのです。
それでは皆さんよい花の句を付けて下さい。例によって一人何句でも結構です。
締め切り：9月5日（土）
宛先：〒227-0047 横浜市青葉区みたけ台2-22 臼杵游児宛
連句入門（その５７）
この半歌仙のこれまでの進行を復習しましょう。
オ発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間でお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
折端 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ折立 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼
三 乾杯のカクテルの名の夢心地
四 夫婦茶碗の片方が割れ
五 「覆水は盆に還らず」家訓とし
六 大くっさめを憚りもなく
七 年の瀬の月は不況に身を削り
八 カレーライスはママが一番
今回の課題はこれに雑の長句を付けることでした。
例によって沢山の付句が寄せられましたが、皆さん大分付句に慣れたためか、
決定的な失敗作はありませんでした。
従って佳作２３句から検討してみたいと思います。
１、傘張が方便の長屋浪人に
江戸時代傘張は浪人の有力な内職だったようです。
ただ打越に「不況に身を削り」がありますのでやや戻る感じです。
「浪人は生きる手段に傘張りて」
２、安直な近場旅行は子供連れ
同じ折のウ４句目に夫婦、８句目に「ママ」があり家族の一部の言葉ばかり
出るのは感心しません。「安直な近場の旅がもてもてで」
３、インドへとネットの地図で辿る旅
今回インドを詠んだ付句が４句もありましたが、「カレー」即「インド」は安易に過ぎます。
この句も例えば「未知の国仏の国へ地図の旅」位ではどうでしょうか。
４、小窓から朝の光のさしこみて
打越の月に対して「朝の光」は感心しません。
やや付き過ぎですが「何も彼も便利な厨腕振るふ」では。
５、放牛に朝の牧場鐘鳴りて
「放牛」は作者の造語でしょうか。
「厩出し」という春の季語もあります。
「のんびりと牧場に憩ふ馬と牛」
６、さりげない絆が家族かくし水
２、の句で説明したように既に幼・夫婦・家訓・ママとこの
半歌仙では家族に関係した言葉が沢山出ています。
「さりげない絆に人は結ばれて」と一般論にしたほうが良いでしょう。
７、ままごとの父親役になり手なく
２、６、で説明したとおり家族に関連した言葉は出過ぎです。
「ままごとでペットの役を志願して」最近はペットになりたがる子供が多いそうです。
８、細腕の貧者の施し世は情
「細腕」が「身を削り」に、「貧者」が「不況」に何れも打越と付き過ぎで
元に戻ります。
ここは経済や社会問題を離れて転じたほうがよい。
例えば「練習のピアノ漸くドレミファソ」
９、金婚の想い出に乗る豪華船
ウ４句目に「夫婦」があるのにまた「金婚」は感心しない。
「船長は美髭の紳士豪華船」
１０、東京の街を見物親子連れ
２、６、７、で説明した通り「親子」は不可です。また「見物」の「見」は
発句にあります。
発句の漢字は使わないことです。「エトランゼまづハトバスで宮城へ」
１１、地球儀をまはして世界ひと巡り
「地球」が打越の「月」に障ります。「次々と夢が出てくる世界地図」
１２、昼下りインド映画を楽しみに
３、で申し上げたとおりカレ→インドはどうでしょうか。
また「昼下り」も厳しく言えば打越の「月」に障ります。「象と会う動物園を楽しみに」
１３、大富豪香辛料で成功す
大打越（二句前）に「大」の字があります。
漢字の同字はせめて五句位離してください。「香辛料求め東へ貿易商」
１４、貯金箱十円玉の重くなる
また打越の不況に逆戻りの感じです。
「臍繰りの語源を知らぬ学者どち」
１５、目覚しきインドの頭脳驚嘆す
この句もカレーとインドを結びつけていますし、句の内容が抽象的でわかりにくい
難点もあります。
打越も時事句ですし時事句のくり返しの感じもします。
例えば「文明の源はここ時流る」
１６、生まれつき負けず嫌いの次男坊
発想はよいのですが再三説明しているように家族に関連した沢山出過ぎです。
「生まれつき負けず嫌いに勇み肌／悪たれで」
１７、せがまれて孫と出掛ける遊園地
この句も「孫」が気になります。
連句は兎に角次々と変化してゆく、同じような発想はしないということを覚えて下さい。
「観光地デイズニーランド賑ひて」
１８、ＩＴの仕事すいすいインド人
この句も時事句の類で打越に障りますし、インド人が全部ＩＴの仕事に
優れている訳でもありません。「ＩＴに未来夢見る古き国」
１９、夕陽浴びおてて繋ひで童歌
打越に「月」があり「夕陽」は感心出来ません。
また「童歌」も「幼」とやや重複します。
音楽を出すなら「自画自賛見事にオペラ歌ひつぎ」とユーモラスにしては。
２０、天網は見逃すまひぞ世の乱れ
この句も時事句ですし前句との付味も疑問です。また「天」も「月」との関係で疑問です。
その上10、の処で説明しましたが「見逃す」の「見」は発句で使っています。
発句と同じ字は使わないことです。
ここは前句と少し離れていますが一般論にして「八百万神みそなはすうまし国」とでもしては。
２１、酔ふ程にお国自慢の飛び交ひて
ウ三句目に「乾杯のカクテル」と酒は出ています。半歌仙で酒を２回出す
必要はありません。
「いつしかお国自慢の飛び交ひて」
２２、下々の暮しは見えず二世議員
これも10、20、で説明したように発句と同字の「見」を避けましょう。
「二世では世間知らずの甘ったれ」
２３、消え行くや目を見張らせし皿回し
10、20、22、で説明したとおりこの句も発句と同字の「見」を取りたいと思います。
「消えゆくや古き曲芸皿回し」
次はいよいよ入選２２句です。
１、宰相にのぼりつめたる下級武士 大森道生
２、風呂敷の便利さを知る外国人 同上
３、若き頃の無銭旅行のなつかしき 大森道生
４、ちんどん屋鬘を脱ぎてひと休み 同上
５、愛犬が上目づかいに拗ねていて 田添豊光
６、夢語る青年の目の輝いて 同上
5、6、は句が良いので入選にしましたが、漢字の「目」は発句に使われています。
発句と同じ漢字は使わないと佳作の処でも何回か説明した通りです。
従って5、は「上目づかい」を「机の下で」に、6、は「夢語る青年瞳輝かせ」に直して下さい。
７、友達を招く十五の誕生日 長岡友子
この句も可愛らしいよい付句です。
強いて言えば打越に「月」がありますので「日」はなるべく無いほうがよいでしょう。
「バースデイ」に直しては。
８、成金の自慢高慢ほどほどに 高野郁雄
９、提督のつまし好物語り草 高野郁雄
１０、「カシオペア」豪華な車内汽車の旅 北川 稔
句としては悪くありませんが、「カシオペア」は星座の名ですから
打越の月との関係で出さない方がよいでしょう。
「特急の豪華な車内北国へ」ではどうですか。
１１、独身の最后を飾るひとり旅 北川 稔
１２、今日もまたフェンスオーバーホームラン 同上
面白い付句ですが７、と同じ理由で「今日」を変えたいと思います。
「続けざまフェンスオーバーホームラン」
１３、投げ入れる餌に寄り来る鯉の群れ 同上
１４、クラス会上戸も下戸も大はしゃぎ 同上
１５、時刻表広げ小さき旅さがす 荒井 慈
１６、辛口のコメンテーター人気よぶ 同上
１７、エプロンをとれば有名ピアニスト 荒井 慈
１８、マハラジャの宮殿金の大広間 同上
１９、何事もインスタントの世相にて 千葉 繁
２０、この運は長く続くと占い師 佐島和人
２１、カラオケの調子はずれは君の味 同上
２２、ペデイキュアの足組直すさりげなく 同上
21、22、は少し恋句の感じですがまあ許容範囲でしょう。
今回の入選作品の中では残念ながら非常によいという句はありませんでしたが、
それでも太字の句はなかなかの作品です。
治定句は
「提督のつまし好物語り草 高野郁雄」
を頂きます。
この句は前句と少し付き過ぎですかもしれませんが、東郷元帥がカレーが
好きであった故事（横須賀名物の海軍カレーはそれから来ています。）を
上手く使って提督という変化を出したことが処が手柄です。
次はウラの１０句目で雑または春の短句を付けることが課題です。注意したいことは
１１句目が花の定座ですから植物や派手な色など要するに折角の花に障るものは詠めません。
何句でも結構ですから沢山応募して下さい。
締切り日：６月３０日（火）
宛先：〒227-0047 横浜市青葉区みたけ台2-22 臼杵游児宛
連句入門（その５６）
これまでにこの半歌仙も次ぎのようにウラの七句目まで進行しました。
オ発句 此のあたり目に見ゆるもの皆涼し
脇 ほのかに流る風鈴の音
第三 ニュータウン老人ばかり住む町に
四 ゴルフ仲間でお茶の一時
五 上り月みがきこまれし能舞台
折端 忘れ扇に残る伽羅の香
ウ折立 ちちろ鳴く姉の回忌のいく巡り
二 幼馴染と交す目礼
三 乾杯のカクテルの名の夢心地
四 夫婦茶碗の片方が割れ
五 「覆水は盆に還らず」家訓とし
六 大くっさめを憚りもなく
七 年の瀬の月は不況に身を削り
今回の課題はウラの八句目、前の月の句に雑の短句を付けることです。
最近は殆どが入選または佳作ですが、今回も失敗作が三句ありました。
失敗作
１、餅つけぬらし見えぬ兎ら
「餅つく」も「兎」も冬の季語です。課題は雑の短句ですから残念ながら失敗です。
２、実現したるホールインワン
この半歌仙ではオモテの四句目にゴルフの句が既にあります。またゴルフを出すのは
不注意で失敗です。
３、裸電球夜なべに暗し「夜なべ」は秋の季語です。また月の句の直ぐあとに夜とか、
暗しとか詠むのも感心しません。
次は佳作１８句です。
１、水面上がり島沈む危機（ツバル島）
面白い句ですが、大打越に「覆水」と水があります。
２、ワーキングシェア雇用の（4）維持に（3）
例によって下七のリズムが悪い句です。「ワーキングシェアー雇用維持する」で
よいでしょう。
３、わが三ツ星は母のおむすび
前句が月の句なのにまた星は感心しません。「なつかしきもの母のおむすび」で如何。
４、不惑の悩み友と夜半まで
「不惑は」四十才のことですが句の意味がはっきりしません。
また前句の月に「夜半」もどうでしょうか。
５、我の気がかり胴の贅肉
病態を出すことはよいのですが少し言葉が気になります。
「気になるものは腹の贅肉」では。
６、地球は民の格差悩まし
前句に月があるのにまた「地球」も感心しません。
「格差に悩む世界各国」にすれば意味もはっきりします。
７、学生襲ふ就職（4）不安（3）
この句も下七のリズムが問題です。「就職不安悩む学生」としましょう。
８、縄のれん分けくぐる益荒男
「益荒男」とは強く勇ましい男子、立派な男ということで、何故縄のれんつまり
居酒屋に出てくるのか分かりません。また「分け」「くぐる」も重複です。
「縄のれん分け呷る枡酒」くらいですが、酒もウ三句目に「カクテル」が出ています。
９、テニスのあとに通ふ居酒屋
オモテ四句目にゴルフが出ています。またスポーツのテニスを出すことは避けた方がよいのです。
また酒も重複です。
１０、日本に残る義理と人情
前句に月があるのに日本の「日」は感心しません。
「僅かに残る義理と人情」にすればよい付句です。
１１、酔眼朦朧あしたは地獄
この句も酒の重複、地獄でなく一層のこと「ひたすら縋るみ仏の慈悲」にすれば釈教の
よい付句になります。
１２、取り立て厳し無い袖（4）振れぬ（3）
下七のリズムが気になります。「払ひたくても振れぬ無い袖」としては。
１３、スポーツジムでメタボばっちり
病態はよいのですがスポーツはオモテ四句目にゴルフがあります。
「漢方薬でメタボばっちり」としてはどうですか。
１４、次の客待つ落ち着かぬ宴
意味がよく分かりません。また前句ともどう付くのでしょうか。
１５、儲かってゐるハンバーガー屋
不景気だからハンバーガー屋がよく売れているということですか。
「ハンバーガーが何故かよく売れ」くらいです。儲かっているは少し大げさでしょう。
１６、親にもらひし丈夫な（4）体（3）
下七のリズムが要改善です。「丈夫な体親に頂き」ならよいでしょう。
１７、子等の喜ぶ餃子山盛り
ウラの三句目に幼馴染がありますから子等は直したほうがよいでしょう。
「せめてもの贅餃子山盛り」なら前句との付味もよくなります。
１８、罷免大臣酒のしくじり
この句も８、９、１１、と同じく酒の重複です。また「大」の字も打越にあります。
「異国の恥で閣僚が首」くらいです。
次は愈々入選２７句を勉強しましょう。
１、砂漠に長き隊商の列 大森道生
年の瀬の不況の月とよい付け味を保ちながら、うまく転じています。
２、Fワンレースホンダ撤退 同上
原句は「本田」になっていましたが社名は「ホンダ技研」ですから「ホンダ」にすべきです。
３、言語にもある絶滅（4）危惧種（3） 同上
非常に面白い発想なので入選にしましたが下七のリズムが悪いのが気になります。
「言語にもある絶滅の危惧」
４、武士は食はねど口に小楊枝 同上
「武士は食はねど高楊枝」が成語です。わざと小楊枝にしたのはユーモラスです。
５、東京五輪招致可能か 北川 稔
６、故郷の母から励ましの文 同上
７、盛んに売れるリサイクル品 同上
８、今度こそはと買ふ宝籤 同上
９、手荷物検査無事に通過す 北川 念
旅の句として面白い付けです。
１０、サウナで解す今日の疲れを 同上
「今日」の日が月の直ぐ後で気になります。
この句も９、の句と同じ旅の句にして「サウナで解す旅の疲れを」としては。
１１、庶民の暮し見えぬ政治家 千葉 繁
１２、浮かれ元禄栄華儚し 千葉 繁
１３、出世街道追いつ追はれつ 田添豊光
１４、足し算合わぬ人生を生き 同上
合格にはしましたが、意味がはっきりしません。「算盤勘定合はぬ人生」くらいですか。
１５、民のかまどはお上次第で 高野郁雄
１６、ボランテイヤの愛の炊出し 池田笑子
１７、リバウンドする下手な減量 池田笑子
病態の句ですが「リバウンドする」が面白い発想です。
１８、だしは鰹節母の手料理 同上
１９、はち切れそうな細きジーパン 佐島和人
「ジーパン」はまだ衣料が出ていなかったので結構です。
ただはち切れそうなと細きとの対比は少し気になります。
「はち切れそうなジーパンの腿」では如何ですか。
２０、加齢ですねと医師の診断 同上
２１、しみったれなりにわか成金 同上
２２、監視カメラのダミーはびこる 同上
２３、頬豊かなる聖観世音 荒井 慈
この連句ではまだ神祇釈教が出ていないのでよい付句です。
ただ下七はリズムが悪いので「頬豊かなる観音の像」とした方がよいでしょう。
２４、元気を出せと鳩時計鳴る 同上
２５、カレーライスはママが一番 荒井 慈
２６、プラス指向で渡る世の中 同上
２７、いつしか第九歌ふ側なり 同上
本格的な音楽はまだ出ていないのでよい付句なのですが、留字の「り」は前句の留め字と
同じで修正すべきです。
「いつしか第九声を揃へて」としましょう。
入選句のなかでも編み掛け太字の８句はかなかの付句です。その中から２５、の
「カレーライスはママが一番 荒井 慈」
の句を頂きます。
この連句では飲物は出ていますが食物はまだありませんし、月までが身を削るような
不況に対し、カレーならママが一番と可愛らしく付けたのはなかなかの句です。
次はウラの９句目、雑の長句を付けて下さい。
今までの１４句をよく読み直し更に前句を睨んで付句を工夫してみて下さい。
例によって葉書で何句でも結構です。
締切り：４月３０日（木）
宛先：〒227—0047 横浜市青葉区みたけ台２-２２ 臼杵游児宛
